Yamatabi-CLUB000
初日:高野山〜萱小屋 2日:萱小屋〜三浦峠 3日:三浦峠〜七色分岐 4日:七色分岐〜熊野本宮 コロのお話
五百瀬〜三浦口〜三浦峠(泊)〜上西家跡〜西中〜西中バス停

伯母子岳を下山し、次ぎの峠「三浦峠」を目指す登山口の集落に「五百瀬」があります。
萱小屋を6時に出発しておよそ5時間。疲れた体で神納川の畔に降り立ちました。早朝から300m登って1000mほど下ってきています。今から三浦峠まで750mほど登らなければなりません。
神納川の流れ 三田谷登山口
三田谷登山口から三浦峠登山口に向かう道すがら、一軒の家の前で「不審者通過〜」と言わんばかりに「ワンワン」と吠える黒と茶と白の混じった小型犬がいました。
「通したってえなぁ。こっちもジョンにポチと、あんたの仲間やないの〜!」
そんな言葉を犬にかけながら
1qほど離れた三浦バス停付近の自動販売機で喉を潤すことにしました。
犬はその間、尾をふりながら私達の前になり、後になり付いてきました。
コロ 三浦峠登山口
神納川に架かる船渡橋 船渡橋はつり橋です まだあの峰を越えなければなりません
「もう帰りなさい」と促してもずっとついてきました。自動販売機を利用していると「ここに腰をかけて休んで下さい」
と、民宿のおかみさんが軒先の椅子をすすめてくださり、その善意に甘えることにしました。高野山から歩いて来たこと、五百瀬という集落から犬がついてきていることを話しました。
「ああコロやね、峠を越えるかも知れないよ、峠の向こうにはコロの母親が住んでいるからね」そんな話を半信半疑で聞きながら、しばし休憩を取り、三浦峠を越えることにしました。「さあコロ!いよいよお別れやねバイバイ」 姫はその昔、ダックスフンドにお尻を噛まれてから、大の犬恐怖症なのですが、何故かコロとの会話が弾んでいました。

私たちが船渡橋という赤い吊橋を渡ろうとするとき、コロは悲しそうな声で「クオーン、クオーン」と鳴いたあと川原に走り去りました。川原に降りてからも吊橋を渡る私たちを見て「クオーン、クオーン。クオーン、クオーン」と寂しげな泣き声をたて鳴き続けています。

橋を渡る私達を見送ってくれているのかと思いきや、水面に向かってダイビングをしたのです。4月初旬の冷たい川の中を泳いでいるではありませんか。一瞬の予期せぬ出来事にシャッターチャンスを逃してしまいましたが、まさに感動の一瞬でした。
そうかコロはグレーチングで出来た隙間の開いた橋は渡れないんや。
水の中を泳いだコロは対岸に上がってきて、私たちの前で濡れた体を左右に振り、水しぶきを飛び散らかしていました。
「ワタシを置いて行かないで!」とも「さぁ道案内はワタシに任せて!」とも受け取れる様な仕草で前に回ったり、後に回ったりしています。
「そのうち諦めて帰るやろ」と言いながら歩を進めました。
重いリュックが肩に食い込み、かなり苦しい急な阪をあえぎながら登っていくのを、コロが癒してくれるのがよくわかりました。
先頭を歩くコロは、先を走ったかと思うと、引き返して後ろに回り20mほどさがると、また追い越していって先を走り、いっこうに帰る気配はありません。先頭を歩くポチ(主人)と前後しながら、仲良く三浦峠を目指している様子です。一方、姫は15s以上あるリュックの重さに喘ぎ、一歩また一歩と、かなり遅れてついて行きます。
今夜のテント場は昴の里の予定ですが、どうもこの調子では行き着く自信がありません。
ジョンも20s近くを背負っているため「無理はしないでテントの張れる良い場所があれば途中でテント泊しようと」言うことになりました。

三十丁の水場で遅い昼食を摂る予定でしたので、ポチが自分の荷物を置いて引き返してきた時には、コロも一緒に帰ってきてうれしそうに飛びついてきました。
「迎えに来てくれたんやね」まとわりつく犬を見て犬ってこんなにかわいいものかと感じずにはいられませんでした。
三十丁の水場を過ぎ、杉木立の中を抜けていくと尾根のはずれに出ました。眼下にはコロの住む集落が小さく見えています。
距離にして6qは登ってきたことになります。付いてきてくれた事がうれしくもあり、また「ほんまに帰れるんやろか?」と悲しくもあり。

もうすぐ三浦峠という頃、コロは再び舞い戻ってきて、うれしそうに纏わり付いてきます。
「やっと登ったよ。迎えに来てくれてありがとう」そう声をかけるとうれしさに…ホロリ一滴。
もうすぐ三浦峠 コロのすむ五百瀬の集落
三浦峠の東屋 今夜はここを借りて コロはじっと見守ってくれています
登り切った三浦峠には、りっぱな東屋があり、他の登山者もいないことから、今夜のテントは東屋の軒下を借りて張ることにしました。
ザックを解き、荷物を出してテントを設営します。その間、コロは近づかず離れずの距離で静かに私たちを見つめています。時々姿が見えないので、
「コロは帰ったのかなあ」 その声を聞いて一目散に私たちの近くまで駆けてきます。「まだ居ったんかいな。ぼちぼち陽が暮れるで」そんな会話を楽しみながら夕食の準備を進めます。太陽の沈まないうちに夕食を取ることにしました。「コロに何を食べさそう。長い間、山をやっているけど犬の餌の心配をするのんて初めてやなあ」ジョンが漏らします。
メニューはレトルトの赤飯とラーメンとサバの味噌煮です。「コロの食べられる物はおやつのジャコとナッツがあったよね」それを出して手の平にのせると、美味しそうに食べました。赤飯もあげましたが嫌いの様です。
ラーメンも美味しそうに、サバ缶もおいしそうに平らげて「これだけ食べたら麓まで帰れるやろ」
食事も終わり、日も暮れ、もう帰るだろうと私達は眠りにつきました。夜中に目を覚ましトイレに行こうとした時、「おい、みっちゃん、コロがおるぞ!」
ジョンの叫び声に目を覚ましテントの外を見るとヘッドライトの明かりら照らされたコロの目玉が光っていました。見守ってくれているのかなあ。

安心して再び眠りにつき、午前5時を迎えるとコロはテントの前で私達が起きて来るのを待っているように、チョコンと座り尾を振っています。

「帰らんかったんかいなぁ。ちょっと待ってね、朝ごはん作るから」そう言いながら朝食のメザシを小さく刻みご飯にかけてあげるとうれしそうに平らげました。

午前6時、私達は西中の集落に向けて出発し、途中の谷川の水を見つけて洗顔を済ませていると、コロもまた美味しそうに水を飲んでいました。
「コロの母親は西中の集落におる」と言う民宿のおかみの話を思い出し「そうかお母さんに会いに行くんか」と声をかけここからは3人と1匹の珍道中が始まりました。

相変わらずコロは前に行ったり後ろに回ったり、藪の中に飛び込んでいったり、盛んに動き回っています。
「この犬は可愛いなあ。都会の犬と違って自由にのびのびと暮らしてるいるもんなあ」…ジョン
ポチ、コロ、ジョンの3匹と姫一人の記念撮影 姫にべったり…餌の出所を知ってるね
三浦峠を出発しておよそ1時間。出店跡を過ぎたころでした。左の尾根の上でコロが鳴き始めました。「ワン、ワン、ワンワン」 鋭く甲高い鳴き声は徐々に小さくなっていきます。「ワン、ワン、ワンワン」次第に遠くから聞こえてきます。「どうしたのかなあ」ちょっと心配になりましたがそのまま歩を進めていると、鳴き声がしなくなってしばらくしたころ、突然、藪の中から飛び出してきました。尾っぽを振り振り何か訴えているようですが、私たちには読み取ることが出来ません。そのうちコロは、今までと同じような様子で前になり、後になり快適に走っていきます。
「さっきの鳴き声は、何か獣の気配を感じて追い払ってくれたんやろうね。猪かなあ、熊かなあ、鹿かなあ。何や獣らしき匂いを感じたもんなあ。きっと私たちを守ってくれたんや。 そうか、後ろに回っているのはただ遊んでいるのではなく、後方の危険も見てくれているんや。やっと理解できたわ」
そう、ジョンが言ってます。
西中まで送ってくれました コロにちくわを買ってあげ、レーションのパンとでねぎらいました
別れるのが悲しくて…みっちゃん クスン
別れのときが近づいてきます 郵便屋さん…コロを五百瀬まで配達してー 十津川バスに乗ってお別れです
休憩時の行動食もコロには少しづつパンを与え西中の集落に到着しました。ここから車道しか無いため昴の里までバスを利用することになりました。バス停の食料雑貨店でコロにご褒美のちくわを買いバスの到着までコロとの別れを惜しみました。交番でもあれば事情を説明して飼い主に連絡をしてもらおうと思っていた矢先に軽四輪に乗ったおじさんが「また来たのか」とコロを見て話しかけてきました。話を聞くとひとりでも帰れるから大丈夫との太鼓判を押してくれました。

十津川行きのバスが見え「Uターンしてきますから」と運転手さんが私達に声をかけると、コロはバスとともに姿を消してしまいました。
しばらくしてUターンをしてきたバスの前をコロが走ってきました。いよいよお別れの時がやってくると姫の目には涙がいっぱい溢れていました。

三浦峠を越える登山者や修験者の安全を守り、無駄な動きや無駄な吼えかたをせず、決して片手に持つパンやちくわには目もくれず与えられたものだけを食べ、静かに時を過ごさせてくれたコロはまさに名犬といわれるのに相応しい犬でした。

熊野古道・小辺路の尊い思い出となったコロは私達の心の中にいつまでも、いつまでも残っていることでしょう。

初日:高野山〜萱小屋 2日:萱小屋〜三浦峠 3日:三浦峠〜七色分岐 4日:七色分岐〜熊野本宮 コロのお話
文:美智子姫00000 写真/GPSデータ:JON