2011
 大阪〜高野山〜薄峠〜大滝〜水ケ峰〜大股〜萱小屋
高野山大門の南側から高野山大学の裏手に続いている高野山のかつての外周道(結界道)、いわゆる女人道の終点である、ろくろ峠を起点として、高野山と熊野本宮を最短距離で結ぶ約70kmの街道を高野街道もしくは熊野古道小辺路といいます。
途中、水ヶ峰、伯母子岳、三浦峠、果無峠と、1000m級の山越えがあり、最短ルートといえどもかなり険しい山岳道です。江戸時代中期の『三熊野道中日記』には、摂津国の造酒屋、八尾八左衛門が三泊四日で高野山から熊野本宮に至ったと記されています。 
熊野古道・参詣道 小辺路は、霊場高野山から神域熊野本宮大社にいたる二大聖地を結ぶ、標高1000bを越える険しい峰々と御殿川、神納川、西川などをまたぎ紀伊半島のほぼ中央部を縦断するようにつけられている、全長72kmの聖なる祈りの道なのです。
2004年「紀伊山地の霊場と参詣道」としてユネスコの世界遺産に登録された、日本では初めての「道」の世界遺産です。

難波駅発の橋本行きの電車に乗り、極楽橋で標高867bの地にあるケーブルに乗り換え高野駅到着。10分ほどバスに揺られることとなりました。

バスの中で偶然にも此花区の精米所の奥様と出会いました。「大きな荷物を持って一体どこまで行くの?荷物の中味は何?」
「中身はテントと鍋です。それと熊野本宮大社までの4日分の食料です」と応えると、大きなリュックに目をまあるくしておられました。

小雨がパラついていましたが合羽を着るほどでもないと思っていたところ千手院橋バス停で下車した途端、雨足が強くなってきました。
「はは〜ん行く気が失せるかどうか、我々を試しているな?」
そんなタイミングの雨です。バス停で合羽を着終えた頃には雨は上がっていましたが、木立から落ちる雨粒を避けるために、そのまま出発することにしました。
「世界遺産・小辺路入口」の看板の前で記念撮影を済ませ、いよいよ長い道のりのスタートとなります。
▲ろくろ峠 ▲薄 峠 ▲こんなところに車を廃棄
▲御殿川の赤い橋 ▲大滝集落へ向けて ▲大滝集落の分岐
▲杉っ葉を踏みしめながら ▲アスファルトの上も歩きます ▲龍神高野スカイラインとの合流点
▲しばらく龍神高野スカイラインを歩いたあと林道タイノ原線へと入っていきます
▲林道タイノ原線の東屋で ▲記念碑
▲熊野古道の『語り部』をされている小倉さん 
高野龍神スカイラインから分かれて大股方向に歩を進めると、わずかな時間で林道タノイ原線に合流し、アスファルトの道を進みます。

ここで軽トラックを運転して通りがかった、熊野古道の『語り部』をされている小倉さんが車を止めて話しかけてくださいました。
仕事は高野槇の栽培をしていると言う話、伯母子岳は良いところだ、そこまでは長いけど健脚そうだから大丈夫だろうとか、果無の三十三観音の話、十津川のテント場の話などしてくださいました。 10分ほどの立ち話でしたが、思い出に残るお話でした。
 ▲平辻の分岐  ▲ところどころに佇む路傍の野仏
その後は人に合う事も無く、黙々と林道を歩きます。途中、平辻から林の中の小道に入りましたが、古道はやっぱりアスファルトより地道の小道でなきゃあいけないですね。
水ケ峰から大股まで標高差およそ1000m下ります。退屈な下り道です。
▲大股の小辺路駐車場で休憩 ▲大股の集落から伯母子岳を目指します
大股バス停で水タンクに3gあまりの水を汲み、伯母子峠までの7qの距離を背負い登らねばなりません。
小辺路コースは水場が少なくテント泊の悩みの種でもあります。大股バス停からの急な登りを歯を食いしばるように、一歩また一歩と進んで行きます。高度を稼ぐたびに大股の集落が小さくなっていきます。九十九折に続く杉木立の中を一歩また一歩。今、午後4時もう足が上がらない。歩き始めてかれこれ7時間になる。
疲れたー。
▲丁寧に祀られた野仏 ▲案内板 ▲眼下に大股集落
小屋を見つけました「えっ伯母子峠小屋に着いたの?」はるか下の方から姫の声がしました。「アホか〜ここはまだ萱小屋跡や今からまだ2時間はかかるぞっ!」萱小屋で既に午後4時30分が過ぎています。明るいうちに何とかと焦る気持ちと荷物の重さに喘ぎ苦しみ、不安な気持ちが頂点に達しました。「ちょっと小屋の中を見学しよう」と覗くと、たき火が出来るように囲炉裏があり薪も充分にありました。後ろ髪引かれる思いで萱小屋を出発し100メートル進んだでしょうか。
突然ジョンが「引き返して、今夜は萱小屋泊まりとしよう」
▲萱小屋跡でテント泊 ▲中は狭いが居心地抜群サイコー ▲食事の跡は薪を燃やして団欒
萱小屋の中に荷物を置き、テントも広場を利用して張ることにしました。家から準備してきたカレーを温め、リュックに忍ばせておいた梅酒の小瓶6本を出し、まずまずの1日目に乾杯をしました。
「明日は4q余分に歩くことになるけど、まあ乾杯!」炎の色は心を和ませてくれ、山の様に積まれた薪に感謝し午後8時にはテントの中で、高いびき合唱コンクールをしたみたいです。夜中に「キューン」「キューン」 と鳴く獣の声がテントに近づいてきましたが、途中で鹿の糞を見つけていたことや鳴き声から熊ではなかろう鹿だろうと思い、安心して、再び深い眠りにつきました。
文:美智子000