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「スイカが見えました!」正確には「合戦小屋が見えました」なのですが私には小屋全体がス イカに見えたのです。合戦小屋のスイカは有名で一切れ800円、疲れた身体にはたまりません。スイカを食べた後は元気も出て足取りはうその様に快適に動きます。合戦ノ頭の近くで初めて槍ヶ岳の穂先が小さく見えます。これからあの穂先を越えていくのです。1時間ほどで燕山荘に到着。ここで昼食をとることにし、「イチゴミルク」の看板に惹かれ注文をしました。かき氷を想像していたのですが出てきたのはミルクの中にイチゴのシャーベットが入っているものでした。少しガッカリしましたが食パンとジャムの昼食にはこれがまたよく合っていておいしくいただきました。 | |||
長めの休憩を取り終えると、あとは大天井ヒュッテにむけて進みます。尾根筋に入ってしばらく行くとコマクサが沢山咲いていました。朝から9時間の道のりを歩き続けて疲労もピークになっていた頃、為衛門ノ吊り岩辺りで日本ザルの親子に出合いました。10匹以上が群れをなして住んでいるようです。うれしい出迎えに重たかった足が心なしか軽やかになります。小林喜作が切り拓いたという大天井岳をトラバースする喜作新道は、まるで開けても開けても同じ箱が出てくるびっくり箱のようです。次から次から同じような切り通した道が出てくるのです。ええ加減嫌になった頃、大天井ヒュッテの赤い屋根が見えました。やっと天井ヒュッテに到着です。 大天井ヒュッテのオーナーはDVD「北鎌尾根」のナレーションをされた方で北鎌尾根を熟知されており我々に「北鎌を目指すのは大変ですよ。バリエーションルートのために道も無い、標識もない。気をつけて行きなさい」と檄を飛ばしてくれました。山荘の夕食では珍しい「トンカツ」が出て美味しく頂くことができました。消灯8時おやすみなさい。 |
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【パートナー・JONの声】 北アルプスの一般ルートはほとんど経験していたが、バリエーションルートである北鎌尾根は経験が無かった。それがなぜ北鎌に入ることになったのか。50歳で登山を再開して十二年、岩も雪も沢も十分やってきた。一般登山では毎年のように白馬岳や白山、御岳山など二十数人の参加者を連れて登ってきた。ぼちぼちプライベートで前穂高岳の北尾根や北穂高岳東陵をやってみたいと思うようになってきていた。 昨年9月。やまたび倶楽部で槍ヶ岳に登山したときのことだった。槍の穂先に登頂し、何も見えない周囲に目をやって感慨に耽っているときだった。濃霧の中、祠の横から2人のクライマーがアンザイレンで姿を現した。一人は山岳ガイドもう一人は中年女性のクライアントのように受け止めた。 「こんにちは。どこから上がってこられたのですか」と姫。 「北鎌からです」とクライマーの声。 全てはそれに始まった。普通、北鎌尾根がどんなところか認識をしていれば、そのような質問はしないものだが、知らないが故に出た質問だった。祠の横に出るのは殆ど北鎌尾根を登り切った場合である。そこに姿があると言うことは北鎌尾根登攀者ということである。ただ希に、子槍、孫槍、曾孫槍を登ったクライマーがその辺りに登り切ることがあるらしi。 「来年は還暦を記念して北鎌から槍に登りたい。登れるかなあ」 その言葉に対し、「ああ、登れる」私は、そう応えたようだ。 そう応えたようだが、応えた本人は全く忘れてしまっていた。 |
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