9月5日(土)
今日は待ちに待った赤木沢の遡行です。朝5時45分には全員小屋のテラスに勢ぞろい。沢靴にスパッツ、手袋をつけて準備完了。オリオンさんのリードのもとに準備体操をすませ、いよいよ入渓です。
小屋前のテラスで準備運動 河原に降ります 黒部川の水は冷たそう 水は限りなく綺麗
黒部川・奥ノ廊下に降り立って…いよいよ遡行開始です。
薬師沢小屋のテラスにはハシゴがかかっており、それを降りるとそこが黒部川・奥の廊下です。いよいよ遡行開始です。ハシゴを下りる時に、4〜5人グループの人達がおり、先を譲りました。「どちらまで?」と声をかけてきたので「私達は赤木沢です」と応えて見送り、私達も黒部川に足をつけました。「冷めたっ!」一瞬でしたが身の凍る思いをしましたが、あとは想像していた以上に水温も高く、快適に遡行が楽しめそうです。
「あっ!忘れてた。小屋前の赤い吊橋をネコちゃんに渡らせるのを忘れてた。残念」
黒部川・奥ノ廊下を遡行していくとやがて大きな瀞に遮られます
瀞を右から巻いていくとミニナイアガラの滝と呼ばれている川幅一杯の滝の上部に出ます
大岩小岩を踏み、また流れに逆らって遡行していきます。あるところでは岩飛びをし、またあるときは大岩をへつり、流れに足をとられる所もあります。さすが黒部川、激流に洗われる事も度々あるのか10人歩いても泥を巻き上げるようなところは一箇所もありません。
サイダーのような飛沫を上げている所、ターコイズブルーのような発色をしている淵、泳がなければ渡れないような蒼い瀞。どこに目をやっても此処の風景は新鮮そのものです。



右が岩で遮られ遡行出来なければ膝上まで水に浸かって対岸に渡渉します。幾度かそれを繰り返しながら進んでいきます。両岸を遮られた大きな瀞場ではやむ無く右の斜面を大きく高巻く一場面もありました。

←黒部川本流にかかる滝
やがて正面に黒部川をいっぱいに堰をするように落ちている滝に遭遇します。地形図には名前が記されてはいないのですが、沢仲間の間では「ミニナイアガラの滝」と呼ばれているそうです。ルートはこの滝の手前を右に折れていくのですが、ミニナイアガラの滝に誘い込まれるように、エメラルドグリーンの瀞を腰まで浸かって渡渉しミニナイアガラの滝を越えてしまいました。
黒部川本流・奥ノ廊下  ミニナイアガラの滝
美しい瀞が随所に現れます 赤木沢の入り口です
そこで、朝ハシゴ下りを先に譲ったグループが休憩している箇所に合流し
「あれっ!?あなた達は赤木沢ではなかったのですか?このコースは違いますよ。本流遡行ですよ。ここから先はゴロ石ばっかりです。私達はここでヘルメットを外しました」とリーダーの言葉。
やっぱり人と人の会話はしておくものですね。どこでどのように助けられるかわかりません。丁寧にお礼を述べて少しだけ引き返し赤木沢コースに軌道修正をして奥の廊下に別れを告げ赤木沢に入りました。
 ミニナイアガラの滝の上で 岩場を巻いて赤木沢に入ります  各自ルートを選んで歩きます  何処もがルートです 
岩を飛んで進みます  滝を直登します  流れの中を楽しみます  滝の横を登ります 
果敢に攻めていきます 最後のひと登り 滑床も楽しいものです 天気もよく最高の沢日和
「赤木沢だー」「すごい来て良かった」全員感嘆の声を上げています。その美しさを表現する言葉が出てきません。苦労してここまでやって来た者のみ味わえる感動です。
出合からすぐに現れるのは2段20mの滝。傾斜もゆるく比良山系でトレーニングを終えた私達にとってはルンルンで登攀です。しかし油断は禁物で慎重に、階段状の滝を歩いて登ることができました。次に登場したのは、太陽の光に、キラキラときらめくナメ滝。ここも快適に登れました。メンバーのどの顔を見ても笑顔が落ちこぼれていました。
りんご冷やしてるの? ウマ沢の出合 小滝大滝が次々に現れます
滑滝は最適 登れるところはどんどん登っていきます
水の流れのきついところはロープを出して流されないように安全確保です。予備知識にあった「前半の核心部」とも言えるような4段の連瀑。シュリンゲを出したりロープを出したり、美しい滝が次々と目の前に現れて感動の連続でした。美しい小さな滝やナメ滝を登っていきます。ほとんどの滝が直登できるので快適で、むしろ比良山系の滝の方が難度は高い。とにかく感動が言葉で表せないのが悔しい!
階段状の滝を過ぎるといよいよ核心部の30m大滝の到来です。大滝の手前の高巻に時間を費やしてしまい、疲労の色が濃くなり、足を滑らせる者、ロープにぶら下がりそうになる者が出てきました。慎重の上にも慎重が必要とピーンと心のロープを張り直さずにはいられませんでした。そう言いつつも大粒の野いちごに歓声をあげ、流れ落ちる水を手ですくい飲みしながら碧くきらめく滝登りを堪能しました。もうすぐ稜線が見えてくるはずです。なんだかとても惜しい気持ちになります。 水量もだいぶ少なくなり、やがて水量がなくなり水源が近いことを感じました。
赤木沢を遮断するようにそそり立つ赤木沢大滝に直面します。ここは大きく高巻かなければ上流へいけません。左岸を大きく巻いて滝の上部にでます。そこからしばらく遡行し2本目の出合を右にとっていけばやがて沢は細くなり、水量も殆ど無くなりチョロチョロ状態になってきます。
水との別れを惜しみながら、ガレ場を登ると眼の前に広がったのは大草原。「草原に出ました〜っ!」「あのすばらしい赤木沢とはもうお別れなんだ」と思うととても寂しく、この段階では草原の苦しさは想像もしていなかったため、感傷に浸っていました(笑)
稜線に向かい,それぞれの思いを秘めて草原を登り、登山道に出たら沢靴を登山靴に履き替えようねと、それまではチングルマのジュウタンの上をそっと歩かせてもらいました。
「高山植物は大切にしよう」わかっているのですが、この草原はチングルマを踏んで進まないと前に歩けないほどのチングルマの宝庫だったんです。赤木沢遡行終了! 感動で涙がこぼれそうになりました。
こんなすばらしい沢に、すばらしい仲間達と来れたことに感動が走りました。チングルマ、うさぎ菊、りんどう、トリカブト、フーロー草、母子草、梅バチ草と多くの高山植物とも出会えました。雷鳥の親子も見たそうです(残念ながら姫は見ていません)
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「ところがどっこい編」
ところがどっこい!世の中そう甘くはありませんでした。草原の広さはケタハズレで、這い松の藪漕ぎ、笹の藪漕ぎをしながら、いくつもの谷間を越え、気の遠くなるような道のりでした。「あかん時間がない。姫、前に来て!」とリーダーと私が登山道探しに先発隊となりました。他のメンバーは沢靴を登山靴に履き替え、別のルートを歩き始めます。どこを歩いていてもお互いの姿が見え隠れするため不安はありませんが時間が気に掛かります。5時を過ぎると山小屋が「宿泊予定者未到着」の連絡が富山県警に入るのです。進み行く道は見つかりませんが、草の根が倒れていて踏み後らしき箇所は有るのですが、急斜面のため、思うように前にはすすめませんでした。「先発隊として呼ばれたのに、ここで足を引っ張るわけにはいかんな」と自分自身に言い聞かせ、長くて苦しい闘いの時間が過ぎ、やっとの思いで登山道に出ることができました。「登山道に出ました〜!」と叫びましたが他のメンバーに聞こえたのでしょうか。
間もなく稜線に出ます 雷鳥の親子に遭いました もうすぐ小屋です 小屋に到着
赤木平は限りなく広かった 稜線から槍ヶ岳を望むことが出来ました
ここでリーダーは登った傾斜を再び下り、疲れたメンバーのサポートをします。姫は単独で太郎平小屋へ向けて急ぐことにしました。小屋には遭難ではなくて、到着が少し遅れることを知らせにいかなければなりません。一分一秒でも早く到着をしなければと下山しながら北海道の遭難事故が頭をよぎりました。1時間以上歩いたでしょうか。遠くに赤い小屋の屋根がやっと見え、希望の灯りがともりました「よっしゃっ!」と気合いを入れ直し、低く垂れ下がる雨雲と一緒に小屋に到着したのが午後5時丁度でした。30分ほど遅れるが9名怪我もなく無事であることを告げると、小屋の受付の人は「よかったです。今、薬師沢小屋に連絡を入れ、みなさんが予定通りに出発した様子でしたので今から警察に連絡を入れるところでした。ほんと、よかったですね」と連絡のために持ち上げた電話機を置き食堂に「あと30分で到着するみたいです〜」と叫んでいました。食事中の登山者のざわめきの声も応援歌の様に聞こえ、一瞬でしたがフッと気が抜けてへたりこんでしまいました。一息ついて「あのぉ昨日ここにレーションを忘れてしまったんですが捨てましたか?」と聞くと、これですかと姫のレーションが忘れ物としてきちんと預かってくれていました。
(レーションを忘れるなんて死ぬ気かっ〜!)

30分を過ぎた頃、もうそろそろ到着かなと予想をつけて迎えにでると、なつかしい仲間の姿が確認できました。「お〜い、お〜い、もう少しで到着で〜す。がんばって〜」と言うと大きく腕を振る姿が確認できました。午後5時40分、10名揃ったところで部屋に案内をしてもらいました。夕食は少し遅れたものの無事に到着出来たこと、赤木沢遡行の感動などを語り合い、部屋に戻りウイスキーで乾杯をしました。明日はオプションの薬師岳登山をするコース、ゆっくり下山をするコース、薬師岳山頂を踏まずとも、途中までを楽しむコースと自由に選択ができ、体調に合わせて選ぶことにしました。但し単独行は禁止、2人以上の編成をしてもらうことにしました。

文;美智子姫0写真協力;鹿島秀元0000
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