〜ありがとう冬の八ヶ岳「根石・天狗・硫黄」〜
●3月22日(木曜日)第2日目
午前8時をめどに出発準備をすることにしました。今朝の天気は曇りのような、晴れてないような何とも表現しがたい天気です。外気の温度は−3℃、小屋の周りの木々は昨日よりも大きく揺れているように感じます。時折ゴオーッと言う飛行機と間違いそうな音が木々を揺らしています。今日は硫黄岳に登りますが強風と闘うことになるかも知れません。夏沢峠南側の樹林帯の風具合で登頂するかどうかの判断をすることにしました。同室の男性は今日は根石岳の予定だそうで、7時50分現在まだ部屋にいる様子でした。

夏沢鉱泉を出発しオーレン小屋までは昨日と同じ道を歩きます。ジョンは幾分昨日よりは体調がよさそうです。しっかり眠り、しっかり食べたのが良かったのでしょうか。オーレン小屋で昨日、出会ったおじさんがいるかと思い、冬季小屋をのぞいてみましたが「モヌケノカラ」で既に出発されていた様子でした。休憩をとることなく夏沢峠をめざします。夏沢峠近くになると樹木のうなり音が激しくなってきます。昨日の根石・天狗よりも風が強いように感じます。ヒュッテ夏沢とやまびこ荘の間で目出し帽、ゴーグル、合羽のフードなどをしっかりと装着し、強風体制に備えました。いよいよ硫黄岳をめざして樹林帯に入って行きます。
タイムスケジュール
07:50 夏沢鉱泉
09:00 オーレン小屋
09:36 夏沢峠
11:44 硫黄岳
11:55
13:16 夏沢峠
13:46 オーレン小屋
14:10
14:50 夏沢鉱泉
小屋前でアイゼンを装着 バイルとステッキをもって さあ行くぞ〜
風の音は容赦なく私の心を不安にさせてくれます。「行くぞっ!」と心の中で気合いを入れ樹林帯を抜ける頃ロープでアンザイレンをしました。さあここからは風よけになる物は何もありません。天気予報によると西高東低の気象配置、本州南岸には低気圧がある模様です。「気を付けて行こう!左側に飛ばされると爆裂火口の中に間違いなく飛んで行きます。右足、左足、ピッケル、ストックという様に確実に三点を雪面につけるように登っていきます。風は15メートルから20メートルくらい、時折20メートルを超える突風が吹き風との闘いはこれから始まろうとしています。
今から登る硫黄岳をバックに
昨日歩いた道を再びオーレン小屋まで歩きます オーレン小屋に到着です
オーレン小屋の冬季小屋の南側入り口と室内です 箕冠山への分岐
夏沢峠です 山彦荘とヒュッテ夏沢の建物の間を借りて強風に備えます
このくらいの風には耐えられるだけのトレーニングは積んできたつもりではいますが正直恐ろしいです。昨日天狗岳でも強風体験はしていますので、落ち着いて一歩、一歩確実に登っていくことを心がけました。頂上に続く道にケルンが見えてきました。此の頃から風はさらに強くなってきました。これも試練!ケルンの右側を歩くことにしようを合言葉に進んでいきます。歩いていて見えるのは爆裂火口の近くに良いルートがあるように見えます。しかしそこを歩くのは危険なため雪と岩のミックスの中の歩きにくいルートを次のケルンをめざして進みます。強風でお互いの意思疎通が出来ないために後ろからザイルにテンションがかかったら振り向き、ピッケルの示す方向にルートを変えます。「私は猿回しの猿か〜!」と、少し心に余裕が出てきました。強風に慣れたようです。
「孤高の人・加藤文太郎」をも転がした硫黄岳の突風に耐えながらの山行です
5つ目ぐらいのケルンあたりで、あまりの強風にケルンを抱くようにして休憩を取りました。「ここで引き返したら・・・どうなる?」恐そる恐そるジョンに聞きました。「今見える一番高いところのケルンまでガンバレ!そこで引き返すかどうか判断しよう」という事になり最後の力を振り絞ります。目標とするケルンに近づく頃から、雪面のシュカブラがこちらを向いて張り出しているように感じます。「そうか。頂上が近くなると南からの風に押されて雪面が変わってくるのか」そう感じた頃ケルンに到着しました。そこから左方面に目をやると何と頂上ではありませんか!あと50m前進すれば頂上を踏むことができるのです。
「頂上ですっ!」
あまりの強風に飛ばされないように看板めがけて突っ走り看板に抱きつきました。感動の涙がゴーグルの中にたまり視界をさえぎります。360度の大パノラマの景色ですが、ゆっくりと見るほどの余裕はなく10分ほど滞在して下山することにしました。何としたことかここで1台のカメラは電池切れ、姫カメラは寒さによる安全装置が働きロックがかかってしまいました。「バッテリーが雨蓋に入っている。出してくれ!」凍える手でバッテリーチェンジを終え頂上の記念撮影完了です。やばかったです〜!

「行きは良い、良い帰りは恐い」とはこのことで山岳事故の半分以上は下山時に起きると言われるように下りの危険は想像以上です。風もさらに強くなる中を耐風姿勢をとり続け耐えるのですがそれでも一歩、二歩と身体ごと持って行かれます。風が息をしたときに急いで10歩ほど進みます。また突風が吹き耐風姿勢、ず〜っとこの繰り返しです。比較的ゆるやかな広い斜面があったので、あまりの風のつらさで尻セードしようかと座った途端に滑り落ち始めました。滑落です。思わず体の向きを変えピッケルを打ち込みアイゼンの前爪4本を強く突き刺し軽く尻を持ち上げて何とか停止できました。アンザイレンのロープにテンションがかかる寸前の停止でしたが 「尻と膝にはブレーキはついてないぞっ!死ぬ気かっ!」と怒鳴られました。(こわかった〜)
下山時はケルンの風上を通過するようにして下山し、最後のケルンを通過すると1本の白い雪の道が現れました。それを通って岩角を曲がると樹林帯がはるか下に見えてきました。風は衰えることなく吹き続け、岩にしがみついたりピッケルのピックを雪面に差し込んで耐風姿勢で風をやり過ごします。少しでも気を抜くと「おっとっとっ」の状態が続きます。中でも怖いのはキックターンをするときで不用意に立とうものなら大きく風にあおられ転倒寸前になります。低い姿勢でアイゼンを刻み込み回転させながら方向を変えます。三度、四度とキックターンを繰り返しながら降りて行くと尾根の陰で風も弱くなり、積雪量も増えてきて飛ばされる心配もなくなりました。もうすぐ夏沢峠です。しかし風は依然として強く木々をあおり続けています。
夏沢峠でアンザイレンを解きオーレン小屋を目指します。ほっとした途端に空腹を感じましたが風が強いためオーレン小屋まで我慢をすることにしました。夏沢峠から20分ほどでオーレン小屋に到着しました。オーレン小屋は昨日とは違い、陽だまりも無く風も強いため樹林帯の中に入って温かい紅茶ときなこ餅などを頬張りました。名水「オーレン強清水(こわしみず)」は冬場は凍り付き看板さえも確認することしかできませんでした。2年前よりも雪深いってことでしょうか。
午後2時50分、今日はスタッフに心配かけることなく夏沢鉱泉に戻ってきました。「お帰りなさい!お風呂入れますよ」何よりのご馳走です。
部屋に戻ると山梨県のアマチュアカメラマンは今日も根石岳手前でUターンを余儀なくされた様子でした。彼の目的は頂上を踏むことではなく、四季折々の写真撮影なので撤退も早いのでしょう。高山植物の話をしてくれましたがチンプンカンプンでした。山小屋での共通の話題として花の名前も勉強しないといけないと痛感。荷物の片づけは翌日にまわし温泉に入り、夕食時にはスタッフ4人に生ビールを振る舞い天狗岳、硫黄岳無事登頂を記念して乾杯をしました。
1日目 3月21日(水) 2日目 3月22日(木) 3日目 3月23日(金)
0 美智子姫:記0000