2014年3月12日(水)・1日目
根石のコルの突風に転がされ…あえなく敗退ダー
八ヶ岳と聞けば、2012年3月根石岳のコルで登山家「野口 健さん」に出会った時の感動が蘇ります。
八ヶ岳・夏沢鉱泉は私達のお気に入りの宿で「温泉良し!食事良し!アクセス良し!」で今年も仲間とともに出かけることにしました。当初の予定では、前回と同じく松本行の夜行バスで岡谷駅まで行きJRで茅野駅まで移動すれば夏沢鉱泉から迎えの車が来てくれることになっています。また別の知り合いとも劇的な再会もありわくわくドキドキしながら駅の洗面所で身支度を整えて迎えの車を待つ予定となっています。
ところがところがなのです。2月15日の夜行バスに乗る予定だったのですが、関東・甲信越地方に前日から記録的なドカ雪が降り、交通機関がズタズタ!。出発日の正午の情報によると我々のバスも岡谷まで行けません。波乱に満ちた出発劇に巻き込まれ、とうとう「高速バス運休」の知らせが入ってきました。夏沢鉱泉にキャンセルの電話を入れ参加者に事情を説明しました。会社の休暇を出した者もおり、大阪は雪も無く何とも空しい結果となりました。こうなれば諦めるしかありません。翌日は「八ヶ岳無念の代替え登山」と称して傷心の葛城登山を実行し雪訓を試み傷心を癒やしました。
諦めきれなくて空しい時が流れ誰の胸の中にも「リベンジ八ヶ岳!」が大きく膨らんできました。日程調整の結果、この時期を逃したら今年の雪山は諦めるしかないと言うギリギリの選択をし「山が吹雪けば宿で宴会」もありと気負わずに出発することにしました。
08:00  茅野市運動公園出発
 送迎車両で夏沢鉱泉へ
09:20  夏沢鉱泉着
09:45  根石岳へ向けて出発
11:00  オーレン小屋
11:10
12:25  箕冠山 (準備)
12:40
 根石岳は風速30メートル
 超えのため撤退
14:13  夏沢峠
14:40  オーレン小屋
15:30  夏沢鉱泉 (宿泊)
3月11日火曜日午後8時、今回はバスを使わず自家用車で行くことにしました。
大阪駅北口周辺に集合し狭いながらの珍道中のはじまり〜はじまり〜運転は2時間ごとに交代をすることにしています。
大阪からは一服剱さん、ジョン、ポッチー、ひめの4人です。狭い車内ではありますが目的地に着けば全て良しと贅沢は申せません。ハイッ! 
八ヶ岳伝説
『大昔、赤岳の神様「磐長姫」と、富士山の「木花咲耶姫」がおりました。木花咲耶姫はいつも、「私の方が赤岳よりずうっと背が高く美しい」と自慢ばかりしていました。それを見かねた、峰の松目の如来様が「水裁判をしてやろう」と思い、赤岳の峰から富士山の頂上に長い樋をかけ、夏沢の水をそそぎました。すると水は富士山の方へ勢いよく流れ下り、赤岳の方がはるかに背が高いことがわかると富士の木花咲耶姫は大変くやしがり、腹をたてて赤岳の峰をけとばしました。その時の流れた水は、富士の足元、富士五湖に成り、富士の白糸の滝と成り、今日も変わる事なく水をたたえています。又、磐長姫の流す涙は諏訪湖、松原湖、白駒池に成りオーレン強清水になって流れとなり、現在に至っている。
けとばされた赤岳は八ツの峰に分かれたそうな。』

昔から八ヶ岳の中心を夏沢峠として、その境から南を南八ヶ岳、北を北八ヶ岳と分けて呼んでいます。南八ヶ岳は夏沢峠から南、硫黄岳・横岳・赤岳・権現岳を経て編笠山までになります。
午前6時30分、茅野市運動公園の駐車場でお湯を沸かし温かい味噌汁と豆ごはんのおにぎり、メザシで朝食をとりながら別ルートからやってくる仲間たちを待ちました。
7時40分ごろ、お祭り野郎1號・2號が到着。「やぁやぁ久しぶり〜!」と再会を喜び初対面の一服剱さんを紹介しました。8時ちょうどにワゴン車がやって来て「夏沢鉱泉です〜」迎の車がやってきたのです。荷物を積み込み2月の大雪の話などをしながら唐沢鉱泉分岐・山ノ神で「雪上車に乗り換えてください」「えっ?もうここから?」道路の先を見ると真っ白に雪が積もり凍結した状態がよくわかります。
「今年は雪が多いのですね」「ええ2月は小屋から出ることができませんでした」 大雪であったことがうかがえます。
山ノ神 夏沢鉱泉ご自慢の雪上車
山ノ神で雪上車に乗り換えです
ひめ&一服剱くん ポッチー お祭り野郎 1號・2號
夏沢鉱泉に行く途中の橋はすべて夏沢鉱泉先代社長の「おやじ」が掛けたと聞いたのを思い出しました。天の岩戸から大きなツララがぶら下がり、雪の下で寒さに耐え、春を待つしゃくなげ並木を通り治朗兵衛沢の出合を過ぎ雪上車の揺れに身を任せます。雪原の中の道は見た目と違いバウンドが多く、石コロの上を走っているような感じがして、お腹にズキン、ズキンと響きます。
夏沢鉱泉近くになると川に流れる水の色が変わってきました。水は透明なんですが石が鉄分を含んで茶色になっているためだそうです。
そんな話をしながら夏沢鉱泉に到着です。スタッフの方たちが笑顔で出迎えてくれました。夏沢鉱泉(2060m)午前9時20分到着です。
到着後すぐに根石岳、天狗岳を往復する予定です。翌日はオーレン小屋から夏沢峠、硫黄岳を楽しむことにしています。この予定で長野県警茅野警察署には登山届を提出しました。
荷物もかなり重いのですが着替えなどの不要なものは夏沢鉱泉にデポできるため苦になりません。部屋に上がることなく玄関で熱いお茶のおもてなしを受け、着替えなどの荷物を残し、すぐに出かける用意をしました。今日は根石岳から天狗岳を目指します。
午前9時45分、いよいよ山行スタートです。夏沢鉱泉のスタッフに雪質の状態を尋ねると「雪はしっかりと絞まっているためスノーシューはいらないと思います」とアドバイスを受け、アイゼンのみで出発することにしました。  
今日の天気は曇り空ながら風もなく穏やかな登山日和です。1時間ほどでオーレン小屋に到着しました。何度も訪れていますが今年は、ことのほか雪が多く感じます。水分補給をし「箕冠山」の看板を目指します。更に1時間ほどで箕冠山、ここからがいよいよ根石のコルに入ります。八ヶ岳名物「根石の強風」は今日も健在です。木々がうなり声をあげているようで「ほぉら来たぞ来たぞ」とトップとアンカーはロープでアンザイレンをし、中間をカラビナスルーの装備で安全確保をし、いよいよ根石のコルへ一歩を踏み出しました。
「うっ!」思わず息の止まるほどの衝撃を受けました。今までにない強風にみんなが身構えをし一歩づつ進みます。ザクッザクッとよくアイゼンが効いています。
オーレン小屋の冬季小屋を見学させていただきました。
箕冠山でレーションを頬張り、根石への準備を整えます。
根石のコルであまりの突風のため敗退…
耐風姿勢を何度もとりながら標識を抱くようにつかまりながら一歩また一歩と進んでいきました。ジョンがアンザイレン効果を披露するために故意に「教育的転倒」をして見せてくれました。しかしその後は強風にあおられ体制の立て直しができず2度、3度と転倒が続きました。立っていられない風(多分30メートル超え)ですぐ前の人との会話も聞こえません。するとロープにテンションがかかりました。ピッケルで足を踏ん張り振り向くとバックしろという合図のようです。2012年の時にはここで登山家の野口健さんと感動の出会いがあり記念撮影までできましたのに今回はそれどころではありませんでした。根石岳(2603b)は勇気ある撤退です。たったいま付けたばかりのトレースも消えルートがなくなっていました。「樹林帯へ突っ込め!早くここから脱出せよ!低体温症になるぞっ!」そんなリーダーの叫び声を聞きながらやっとの思いで箕冠山まで戻ってくることができました。
敗退した割には楽しく談笑するメンバー…頭の中は下山後のビール…だい。
「いや〜根石の強風は聞いてはいたが凄いっ!」箕冠山まで戻りやっと一息つくことができました。根石岳頂上と天狗岳は残念ながら行くことができませんでしたが誰の顔にも不満の色はなく、それどころか1本のザイルで結ばれた仲間意識のぬくもりが満足感と変わっていきました。「さあ風呂に入ってビールだっ!ビールだっ!」帰りの足取りは軽いです。帰路は夏沢峠からオーレン小屋に向けてゆっくりと下っていきます。
もうここからは安全地帯ばかりです。夏沢鉱泉まで一気にくだりました。
 硫黄岳の山容 右肩にそびえるのは阿弥陀岳
夏沢峠へのルートから振り返る東天狗岳 明日は硫黄岳かぁ 夏沢峠の山彦荘とヒュッテ夏沢
オーレン小屋の前で「エンゼル形」つくりにチャレンジ…どれを見てもオバケだあ
帰りは巻き道をショートカットする尻シェード…歳を忘れて全員アタック
 「ただいま〜」お帰りなさーい。お風呂に入れますよ」スタッフの皆さんが笑顔で迎えてくれました。小屋の外でアイゼンを外し、部屋に帰り荷物を置くとすぐに温泉に直行しました。冷え切った体を少しぬるめの温泉でゆっりと温め(秘湯系、湯色は茶褐色、泉質は硫黄泉、効能は胃腸病、糖尿病、皮膚病、神経痛、リューマチ。)湯上りは待ちに待ったビール!至福の時間です。夕食にビールをご馳走になり山小屋とも思えないごちそうの数々で食べきれないほどでした。夏沢鉱泉のオーナー曰く「ここは登山者の皆さんのベースキャンプのようなところ。ここから山へ登る人たちにお腹いっぱい食べてもらってパワーをつけてもらい元気に戻ってもらいたい」と味噌や新鮮野菜は夏沢鉱泉社長自らが栽培し食卓に並び、そのうえ鍋がまだ付いていました。「何鍋かなぁ?」「土鍋や」「あほっ鍋の中身やがなぁ」こんな会話を隣で単独山行の青年が聞くとはなしに聞きながら笑顔で箸を運んでいました。
小屋の夕食…野菜やお味噌は小屋の主の手作りです
美味しいでーす…多すぎて食べ切れなーい。 鶏冠にイタズラすんなー
夕食後は「羊羹争奪ジャンケン大会」 …どなた、3つも食べたのは
「もしよろしかったら二次会ご一緒しませんか?」と誘うと快く部屋に来てくれました。大阪から持ち込んだ日本酒、ワイン、梅酒を囲み姫の用意した羊羹争奪合戦がはじまりました。甘いもん苦手という人もいましたが勝負の世界は厳しいです。負けたら羊羹を食べつくすまで待ち、再びジャンケンが始まります。「ミヤケさん」という飛び入りの青年は勝負に弱く3個の羊羹を食べる羽目になりました。楽しい夜も更け消灯時間が近づいてきたため翌日のスケジュールを発表しそれぞれが部屋に帰りました。
布団の中にはスタッフが「ゆたんぽ」を入れて温めてくれていてほのぼのとした山小屋の夜は過ぎていきました。  
写真と文:美智子姫  
2010.3.4〜6 夏沢鉱泉・根石岳の思い出 2012.3.21〜23 夏沢鉱泉・天狗岳・硫黄岳