2012.11.02
第14日目  ハイキャンプ〜サミットアタック〜ベースキャンプ
ハイキャンプ5500m→ アイランドピーク6190m→ アイランドピークBC5100m

やっと登頂の日を迎えました。12日間という日数をかけガイド・ポーター10名以上に助けられこの日を迎えました。今日のリーダーはクライミングリーダー認定資格を持つ「ニマ・シェルパさん」そしてサブリーダーにマッチンドラーさんが付いてくれることになりました。
(マッチンドラーさんは来年2月にクライミング認定資格のテストを受けるそうです。ガンバレ!)
午前1時。準備を終え6180bに向けていよいよ出発、アタック開始です。ハイキャンプには数張りのテントが張られていますが私達が一番乗りの様子です。 
石コロだらけの真っ暗の山道を何時間もかけて、ゆっくりゆっくり、アイランドピークの取り付き点まで登って行きます。休憩ごとに岩陰に走る姫の姿がありクライミングリーダーのニマさんが「大丈夫ですか?」と声を掛けてくれます。ひょっとして寸前で登るなって言われるかも知れません。一抹の不安がこの時はじめてよぎりました。下の方を見るとヘッドライトの光が近づいてきます。他のパーティも出発した様子です。 

4時丁度。アイゼンチェンジポイントに到着です。ここからアイゼン、ハーネスを装着し完全装備、お互いをアンザイレンで結びクレバスの中に入っていきます。この状態でアイランドピークへの氷壁取り付き点まで進んで行きます。
ニマ・クライミングガイドさんは前夜ここまで登ってきて自身のスノーブーツやロープをデポされていました。
アンザイレンでお互いを結び合ったものの、この辺りはヒドンクレバスの巣窟、いつ落下しても不思議はありません。またこの氷河全体が、岩山と岩山を跨ぐ大きなスノーブリッジのようなもの、氷河の下はおそらく大きな空洞にちがいありません。前日ニマ・クライミングリーダーが立てた漂竹の赤い布をたよりに進んでいきます。
最初のクレバスは難無く飛ぶことができました。後でJONが言います。「多めに飛べよーギリギリに飛んだらクレバスのエッジを踏み抜くぞ」そう言われると少し怖くなってきます。
次のクレバスに差し掛かったときでした。後続のJONが 「スノーブリッジに乗るなよー、できるだけ多めに飛べヨー。前の人、ロープにテンションかけて引っぱってやって」 声の出ないJONが大声で叫びましたが反応が有りません。その時、先頭のニマ・リーダーが戻ってきて手を差し伸べてくださいました。後日この写真を見て肝を冷やした思いがしました。
もう一箇所のクレバスを通過すると広い雪原に出ました。もう何組か取り付いています。ここでアッセンションを使い氷壁を登るのかと思うと背筋に悪寒が走ります。
夜も明け始めた午前5時過ぎ、あたりがうっすらと明るくなりました。取りつき点直下に到着です。クライミングリーダーがポイントを打ちながらロープ設置のために登って行きました。
上と下では無線機を使いGОサインを出しています。いよいよユマールを付けピッケルを持ち250bはある雪と氷の壁を登って行くのです。姫は3番手に入り、その後をジョンとサブリーダーが続きます。最初のロープから垂直にスノーバーがが3本打ち付けてあり、その都度自己ビレイとユマールを次のピンの上に移動しなければなりません。手袋をしているのでうまくできません。かと言って素手では凍傷にかかってしまいます。思うようにカラビナ操作が出来ずモタモタしながらも自分で処理するしかありません。空気の薄さでユマール1回引き上げるのにハアハアゼェゼェ青息吐息です。息をするのがこんなにつらいと思ってもみませんでした。

3ピッチ目の、ほぼ垂直の壁に差し掛かった時ユマールがピタリと動かなくなってしまいました。操作が間違ったのかと何度も確認しましたが後続者が沢山ロープに続いておりロープがピーンと張られてどうしようもなくなっていたのです。スノーバーとスノーバーの間には、一人しか入ってはいけない約束が守られていません。
「少し待ってくださーい!」と下に向かって叫ぶのですが息苦しくて思うように言葉が発せられません。あと1bというところで力尽きてしまいました。下を見るとジョンが登ってきています。ここまで来てくれたら何とかしてもらえる。そう思いながらJONを待つことにしました。
その時です。上を見上げるとクライミングリーダーの優しい眼差しが見えたので「SOSサイン」を出しました。長くてやさしい手をスッーと差し伸べ「よく頑張りましたね。もう少しですよ」と私のユマールを2度持ち上げて下さいましたが、あくまでも自力で登頂せよという事らしくやさしく見守る姿勢は崩そうとはしませんでした。
「息が・・・止まりそうです」そう叫ぶと背中をトントンと叩いてくれ、やっとふつうの呼吸が出来るようになりました。そして次の瞬間、氷壁を登り終えてファンタスティック・リッジの上に到着していたのでした。
ファンタスティック・リッジ到達点から頂上までさらにフィックスロープが延びています。カラビナを架け替え一歩また一歩。頂上に向かって歩いていきます。下を見るとまだ多くのクライマー達が順番を待っているようです。頂上では多くのクライマー達が大きな歓声をあげ、登頂を喜んでいました。
 「さあ最後の頂上めざして頑張りましょう!」えーっまだここは頂上とは違うのか!まだこれ以上上に行けと言うのか!解っていても、モゴモゴと文句を言いながらユマールのセットを仕替えて細く切り立った頂上へのリッジを辿ります。下山者との交差は大変です。リッジ上に張られた2本のフィックスロープはクロスしてるし、一本は大きくリッジから外れているし、もう生きた心地はしませんでした

ネパール時間、朝7時40分。4人メンバーとガイド2人で登頂成功しました。6180bの上に立ちました。やりました。リュックから用意していた姫旗を出して大きく広げました。外人の中から「ブラボー」そんな言葉をかけてもらった気がします。あとは感動の涙です。
頂上はかなり狭く10人程がやっと立つことができるほどでした。記念撮影を済ませ後からやってくる人のために下山することにしました。
頂上からは360度の大パノラマです。北にはローチェ・8516mが大きく聳えている。このローチェの後ろ側にはエベレストがあるがここからは見えない。
東側にはマカルー・8485mが浮かんでいる。南側のファンタスティックリッジの先にはアマダブラムが見える。周囲の峰峰の名前は解らないが日本では見ることができない景色だ。
再びファンタスティック・リッジを下っていくためにカラビナをフィックスロープに掛け、スノーバーのランニングビレーポイントで架け替えをしながら懸垂下降点に向かいます。
いよいよ此処から8環をセットして250mの懸垂下降です。バックアップもとらずに下っていきます。
外人のパーティ4人が懸垂するのを待ち私達の順番がやってきました。懸垂下降大好きな姫ではありますがさすがに250bは体験したことがありません。蓬莱峡の大屏風岩を50bとするとその5倍の長さがあるということになります。しかも3回も途中でエイト環をかけなおさなければなりません。ATCなら慣れているのですが接続ロープの結び目を通過させるために、今回はエイト環使用となりました。不安ではありましたがそばに誰もいない為自分でするしかありません。1ピッチ目を滑り出しました。2ピッチ目を掛け替えて懸垂をしていると何と同じロープにユマールをかけて登ってくる人がいます。「ノー!ダウン!ダウン!」と必死に訴えると別のロープにユマールを掛け直し、涼しい顔をして登って行きました。
人の張ったロープであっても平気で利用するのが外国人のようで、こんなことが度々あるそうです。
「アイム・ソーリー」と笑ってすれ違った外国人の顔がいまでも思い出されます。
全員が懸垂下降を終え、下降終了点で全員そろったあとリーダーがロープ回収してくるのを待ち、往路と同じくアンザイレンを結びアイゼンをひっかけないように、クレバスの縁を慎重に下りて行きました。明るくなってから見るクレバスは限りなく深く、引き込まれるような錯覚さえ起こすほどでした。
クレバスに入った辺りから、どうもジョンの歩き方が変です。長い間、充分な食事もとらず、またこの登攀で疲労困憊。緊張の糸も切れてしまったのでしょう。辺りかまわずへたり込んでしまいました。ジョンは三歩進んで休憩し、二歩進んでは休憩し、ついに雪原に寝っころがってしまいました。
そんな中でもベストアングルが来たらカメラを構え撮っていました。 その根性に敬服します。
 アイゼンチェンジポイントでアイゼンを外し、ハーネスを外し、ピッケルやガチャを仕舞ってハイキャンプを目指します。それでもジョンの歩きは一歩一歩です。
リーダーのマッチンドラー氏は、ハイキャンプで待機しているスタッフに、無線で連絡し温かいホットレモンを岩場の上のほうまで運んできてくれました。この心遣いには深く感謝、良いスタッフと巡り合えたことを喜びました。
何とかハイキャンプに到着。ここで2時間ほど眠らせてもらって、更に下のベースキャンプに戻ったときには西の空は夕暮れの様相になっていました。
「全ての体力を使い果たした〜」と何度も何度もよろけながらベースキャンプに到着しました。あとはテントに倒れ込むようにして爆睡してしまいました。
 「ベースキャンプでテント泊」
 この日のコンディション
サミットを踏んだ喜びで、お腹の痛いのも、喉が痛いのも、鼻が詰まるのもどこかに飛んでいってしまいました。この日を境に体調も少しづつ回復に向かいました。