山岳事故防止
Safety mountaineering
凍傷は低温による局所的障害であり、局所が氷点下になると発症する。
組織の凍結による障害と低温による循環障害の両方に原因がある。
救急処置は温湯による凍結の急速融解が良い。
  急速融解後の再凍結は予後を極端に悪くする。 
  局所を乾燥型にすることが大切で、軟膏類の塗布は禁忌であるが一部有効なものもあるので医師に相談。 
 
 段 階   症  状  障 害 の 規 模   回復の程度
 T度  発赤腫脹(浮腫)  表皮のみの障害  治癒可能
 U度  発赤浮腫・水泡形成  真皮の障害
 V度  腫瘍形成  脂肪・筋肉組織の壊死(黒変) 治癒不可
 W度  骨・軟骨組織の壊死 骨、軟骨に達する。 
 症状と対応
局所性の寒冷傷害で、体の組織が凍結し、細胞間に氷の結晶を作ったり、細胞自体が凍結したりする事により発生する。しかし、凍結よりもそれによって発生する二次的な血行障害(血栓)によるダメージの方が大きい。
凍結により血液中の水分が失われ血液が濃縮されることによる。
手・足・耳・鼻・ほおなどがなりやすく、一度凍傷になった人や、喫煙者、O型血液者はなりやすい。
(黒人は白人より3〜6倍なりやすい)心臓病・皮膚病・糖尿病の人もなりやすい。
組織の凍結はマイナス4〜10℃以下で発生するが、循環障害は氷点下でなくても発生する。


最初、針でちくちく刺されるような痺れ感が一面に発生する。(しない場合もある。) 
凍結→すべての感覚が無くなる。痛みもない。
血管が収縮→青白く変色→血管内にスラッジが発生→紫色に変色→壊死。凍傷がひどくなければ、加温後数時間から数日で水泡ができる。
水泡の液体が透明で、指先まで広がれば、その下の組織は回復する。
水泡に血液が混じったり、まったく水泡ができないような場合には、回復不可能(V・W度)な場合が多い。(初期の段階では、凍傷の程度の予測は困難)


実際には凍傷直後にどの程度組織が破壊されたかは判断出来ない。
よって病院での治療後に、損傷部位を判定して、皮膚移植、切断といった外科治療が行われることとなる。
(血液凝固を抑える薬や末梢血管を拡張させる薬が有効に作用するようであるが、それらは医師の処方箋が必要となる。)

【山での応急処置】
 指先が感じない、足が感じないと思った時点で、ただちに、その部分を温めないと凍傷になることがある、我慢に我慢を重ねて登攀を完成させたとしても、その代償は限りなく大きなものとなってしまう。
 クライアントの微妙な表情を見落とすことなくその程度を確認する必要がある。
 凍傷、あるいは凍傷の気配がある場合には、靴紐、特にアイゼンのバンドを弛め、ツウェルトを被って保温してやる 体温が戻る気配がない場合は、湯温40度〜42度位で部位を温めてやる。
 さらに進んだ凍傷に対しても応急処置として湯で温めてやる必要がある。その後は保温して、早急に医師に診せなくてはならない。
 また、凍傷の治療経験の多い医院、医師に診せることも必用である。

【凍傷の予防】
○出米る限り身体を寒気にさらさない。
○保温性の高い防寒着、手袋、登山靴の着用をする。
○食べ物の摂取。体温を維持するためのエネルギーが必要である。
○喫煙は血管を収縮させるので血液の循環を悪くし、凍傷を起こしやすい。
○飲酒、アルコールは、皮膚血管を拡張させるので、一時的に皮膚を温めてくれるが、熱エネルギーの発散をきたし、
 結局は体温の低下につながるので凍傷になりやすくなる。又、中枢神経系を抑制するので体温調整に悪影響を及ぼす。
○血行促進剤の塗布
 血行促進剤として、何種類かが市販されているが、中でもヒルドイド
 (製品名、ヘパリン類似物質)はその効能が高い。
 その他にも次のような製品がありますので、医師にご相談のうえ携行してください。
 ・ピーソフテン軟膏
 ・ヘパダーム軟膏
 ・セレロイズ軟膏 などがある
次の患者には使用しないこと
1. 出血性血液疾患(血友病、血小板減少症、紫斑病等)のある患者〔血液凝固抑制作用を有し、出血を助長するおそれがある。〕
2. 僅少な出血でも重大な結果を来すことが予想される患者〔血液凝固抑制作用を有し、出血を助長するおそれがある。〕
ヒルロイド軟膏
 
○ホッカイロ(白元製)
  靴下の上から貼る事で温かくなり、凍傷を防ぐ。
アイゼンバンドの締め過ぎや、プラスチックブーツのフェルトが汗で湿って膨張し、それによって生ずる血行障害により凍傷になる例が多い。
ごく軽度のものは、暖めたり動かしたりすることにより比較的早期(数分〜数十分)に感覚がもどる。このとき激痛が発生する。その後、冷気に曝された時に痛みを感じたり、弱い痛み(しびれ感)が数ヶ月間続く場合もある。
凍結した組織をお湯(38〜40℃)に浸し急速に温めて、血液の循環障害を防ぐ。ゆっくり加温すると、かえって傷害がひどくなる場合がある。
血栓を防ぐ処置(投薬)が必要。
体温が低い間は、手足の血管が収縮しているため、まず体温を正常にもどしてから処置する。
低体温症の場合には、末梢血管の低温・低酸素・高カリウムの血液が心臓に流れ込み、心室細動などの加温性ショックが発生し、状況をかえって悪化させる恐れがあり、身体を急激に動かさないことが重要。
 加温時の痛みがひどい場合には、鎮痛剤を投与する。
加温後、大きな水泡が発生するが、破らなければ感染の危険は少ない。
感染が明らかな場合には、抗生物質など投与する。
喫煙は禁止。
壊死した組織は数週間〜数ヶ月で普通、自然に脱落する。
 
 感染が起きたり形成のために、手術を行なう時もある。
自力下山が必要な時は、加温してはいけない。解凍すると膨張し靴が履けなくなったり、自力歩行が困難となる。また万一傷ついたり、再凍結したりすれば、かえって傷害は大きなものとなる。
 
強風などにより、帽子・手袋・オーバーミトンなどを飛ばされないことが大切。
バラクラバやゴーグル、手袋は出しやすいところに入れて携行する。
極低温時には、排泄行為などに伴い、僅かな時間で素手に凍傷を負ってしまう場合がある。とくに低体温症や低酸素状態において見当識が失われた時には、防寒にまったく無関心となってしまう場合があるので、早い段階の対応が必要であるし、お互いに注意しあうことが必要
 
手袋は、三層以上で使用するのが良い。インナーには絹、カシミヤなど、中間層にはウール、オーバーミトンはゴアテックスなど。
手袋や靴下を濡らさないことが特に大切。
インナー手袋の一枚はどんな作業中でも脱がないようにする心がけが必要。手袋をしたまま作業をする訓練を日ごろから心がける。
テントや雪洞内では、手袋や靴下を乾かすことを何より優先させる。
靴やインナーシューズをテントシューズ代わりに履き続けないこと。
指輪やピアスの類は厳禁。
アルコールは血管を拡張させ、結果的に体熱を失うことになるので逆効果。
 
雪洞掘削中やビレイなど長時間停滞するときは特に注意をすること
 
知識があれば、あわてずに済みます。また、軽い内に手当てをすれば、後遺症も残りません。
ただ、全く痛みがないため気付かない場合がありますので、くれぐれも注意しましょう。
登山中は、お互いの顔面をチェックし合うことも必要ですし、停滞中は暖をとるための対策も必要になります。

20000円前後の高価な手袋も販売されています。ショップで手にとってご覧になられてはいかがでしょうか。

山行形態別山のケガと病気

凍傷

患部をよく観察し、なるべく軽症のうちに手当てすること。
急速に温める。融解はそれ以上歩かなくてよいときに限る。
凍結は悪化を進めてしまう。

 凍傷は、手足の指や鼻、頬、耳などがなりやすい。原因となるのは、濡れや低温、風などによってひどく冷えることや、アイゼンバンドや靴ひもの締めすぎ、靴のサイズが小さいなどの理由により血流障害が起きている場合である。
 このような原因がそろえば、誰でも凍傷になる危険性があるが、とくに凍傷になりやすい人、気をつけるべき点は以下のことだ。
@汗をかきやすい人 汗で衣類や手足が濡れやすく、冷えやすいため。
A寝不足や過度に疲労した人
B喫煙習慣のある人、登山中に喫煙している人 ニコチンが血管を収縮させるため。
C一度凍傷になった人 患部の血流が悪くなっているため。
D熱伝導性のよい物質に接触している ピッケルなどを持つ手が冷えやすい。
E高所登山をしているとき 酸素が少ないために、熱の産生性が悪く、血管も広がらないため。
F糖尿病の人やベーダ遮断薬を内服している人

【症状】
 最初に起こる症状は、手足の指の痛みとかゆみである。皮膚は蒼白色あるいは紅班になり、軽く腫れる。表在性凍傷といい、表皮が凍傷になっている状態である。多くは数日以内に治る。
 次に感覚が鈍くなる。皮膚は紫紅色になり、腫れて水泡ができる(真皮の凍傷)。多くは3週間程度で治る。
 さらに悪化すると、患部が白ろう化して知覚麻庫が起きる。
 やがて、黒く炭化し壊死する。深部凍傷といい、タt科処置が必要になる場合が多い。
 凍傷の程度を判断することは専門家でも難しいケースが多い。また、段階によって山での処置法が違うわけではないので、凍傷になった場合は、これから述べる方法で早急に処置することが大切だ。

【処置法】
 軽症のうちになるべく早く対処すること。手足の指の先端に異常を感じたら、手をたたいたり、靴の中で指を動かしたり、マッサージをする。感覚が鈍くなると凍傷に考えが及ぼなくなり危険だ。靴ひもやアイゼンの締め具合にも気を配る。
 それでもダメな場合は、コッヘルなどに42度前後の清潔な湯をはり、そこに患部を入れ、急いで温めること。体温計などで湯の温度を測り、常に温度を一定に保つようにする。タ水気に触れて急速に冷めていくので、熱い湯をどんどん足していく。決して下からコンロなどで加熱しないこと。患部の血流が回復するまで温め続ける。時間にして、最低20〜30分は必要だ。重症の場合は、患部の皮膚の色が変化していくのが停止するまでを目安とする。
 低体温症も併発している場合は、全身を温めることも必要だ。
体温が低ければ、全身の血管が縮んでいて、+分な血液を送ることができないからである。
 本人としては、この凍傷が治るのかどうか、切断しなければならないのか、この点がいちばん気がかりであるが、現場ではわからない。実際に切断を決めるのは、受傷から最低1ヵ月間観察してからのことである。
 しかし、どの段階の凍傷であれ血管が縮み、血液がトロトロとして血流がゆっくりとした流れになってしまう。血球が固まり血の流れが停滞してしまうことがいちばん恐い。血流が滞ると、酸素や栄養が体内に運ばれなくなってしまう。
 血流をよくするために、ビタミンEを服用するとよいという人もいるが、信頼性のある報告はない。バファリンなどの鎮痛剤・解熱剤に含まれているアスピリンは、血小板が固まるのを抑制するので血流障害を防ぐ働きがある。凍傷の際に有効だ。
 また、前述の融解を行なうと、患部に再び血が流れ始め、激しい痛みが現れる。あらかじめアスピリンなどの鎮痛剤を服用してから始めるとよい。
 さらに重要なことは、』蝸刷ま、そのあと歩く必要がないときに限る。再び歩かなければ下山できない場合は、凍結したままの状態で歩いたほうが組織が硬いので、障害は軽度ですむo^蝸したあとに、歩くことによって再び凍結してしまうと、柔らかくなった組織を外力でさらに傷め、低温によって血流障害を起こす。場合によっては組織を失うことになる。ヘリコプターなどの収容が決定して歩かずにすむ場合は即刻融解を始める。
その際も、搬送中に凍結しないように保温には十分に注意することだ。
 水庖がある場合は、mm後、なるべく乾燥した状態にし、水庖が破れないように滅菌ガーゼなどで保護する。原則的に水庖は破らないこと。万がー、水庖が破れてしまった場合は、消毒薬で消毒し、滅菌ガーゼで保護する。感染症はできる限り防ぐように。また、凍傷になった場合は、絶対禁煙であjる。

【予防法】
 凍傷はかなりの割合で予防できる。予防することが何よりも大切である。また、凍傷の恐れがある場合は、そのまま放置してはいけない。皮膚に現れる症状もあるので、患部をよく観察することだ。
@寒さと風から身体を守る
 身体を寒さと風にさらさないように適切な防寒具を着用する。雪が入らないようにし、風が直接当たらないようにする。とくに手足や顔の保温に注意する。
A手袋の準備を
 手袋は防水性のあるオーバーミトンも着用する。5本指の手袋よりも2本指のほうが温かい。手袋の予備も必要だ。
Bサイズの合った靴を選ぶ
 きつい登山靴は血流が悪くなりやすい。とくにプラスチックブーツは革製と違って足型に合わせて伸びることがないので、注意が必要だ。靴ひもやアイゼンバンドの締めすぎも注意しなければならない。
Cウールの乾いた靴下を
 靴下はウールが最良である。靴と靴下は汗で湿っているので、毎日乾かすようにする。靴下の予備を忘れないように。
D高カロリー食を摂る
 体温を保つために食物をしっかりと摂ることが必要だ。冬山でのカロリー消費は大きい。熱消費に見合ったエネルギーを補給しよっO
E体力を保つ
 寝不足や過度の疲労を避ける。ひどく疲れると食欲不振になり、食物が摂れなくなる。
Fアルコールをひかえる
 アルコールは末梢血管を拡張させ、一時的には皮膚を温めるが、その後身体の中心の温度を低下させるため、凍傷になりやすい。飲酒は避けること。
Gタバコは厳禁
 タバコは末梢血管を収縮させて循環を悪くさせ、凍傷を起こりやすくさせるので避ける。 なお、凍症に予防効果のある漢方薬もあるので、凍傷になりやすい人は使うとよいだろう。当帰四逆加呉茉莫生姜湯などだ。
第3章
山行形態別山のケガと病気
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 濠
●・●・・・山で使える漢方薬p. 154 99


写真と文:美智子姫