修験者荒行の地 伊勢山上・飯福田寺 表行場巡拝! 2018.03.12
 
 
テレビで「伊勢山上」の映像を見て「行きたいなぁ!行きたいよぉ!」・・・そう思い続けていました。「登りたい山はどこか?」と、聞かれてもすぐには答えられなかったのですがこの魅力的な山にぜひ行って見たいと思いました。メンバーは山も岩も沢も経験しています。六甲山・地獄谷のトレーニングを済ませての出発です。岩場大好き人間にとって魅力的な山を見つけました。秋には石鎚山にも行きたいと思っていたところでしたのでわくわくします。コースには迂回路もあり無理と感じたら迂回路を進むこともできます。

三重県松坂市にある飯福田寺(いぶたじ)・・・通称「伊勢山上」。大宝元年(701年)、役小角により開創された霊場。古来より信奉者が多く北畠家の祈祷所として栄えました。広大な表行場・裏業場へは今も多くの人々が修業に訪れています。伊勢山上 飯福田寺は修験道の行場コースですので真剣に取り組みたいと思いました。 
大宝元年(701年)、役小角により開創された霊場
修験者荒行の地 
午前7時10分上本町発、松坂までは熊野古道・伊勢路歩きの時に利用した電車で馴染みの列車となりました。上本町で靖ちゃん、鶴橋でjunkoちゃんと合流です。天気もよく岩場歩きには最適な天候となりました。
松坂からはタクシーを利用しました。運転手さんに「飯福田寺までお願いします」と言うと首をかしげ「堀坂山(ほっさかさん)のことですか?」と聞き返されました。ので「ほっさかさんて何ですか」と聞き返す始末です。走行途中で飯福田寺をカーナビにセットして貰い、堀坂山の登山口から更に奥に入り伊勢山上・飯福田寺の山門に到着しました。帰りのお迎えも頼みたいので連絡先を聞き仁王門をくぐりました。
少し歩くと赤い橋が架かっていました。入山料の支払いがあるので飯福田寺の受付所へ向かいます。受付所で記帳を済ませ入山料4人分支払おうとしたら「過日、説明を終えたら、とても無理と判断され帰った人がいましたので説明が終わってから頂きます」との事でした。スニーカーでは危険なため靴のチェックもされて慎重な対応でした。 
飯福田寺案内所 薬師堂への橋
 薬師堂  宝篋印塔
手続きを済ませ、飯福田寺を出て正面の石段を上り行場入口へと進みます。念のための用意してきたスワミベルトとシュリンゲで簡易ハーネスを作り、ATCセットを装着しました。ロープはすぐに出せるようにしました。ネットや資料で何度も見ていましたが、厳粛さと静寂さは、伝わって来ず、現地に来て初めて行場であると言うことを身体で感じました。いつになく緊張感が走ります。
まずは「表行場コース」を選びました。表行場入口は薬師堂の左側にあり、修験道、山伏の修行の場が今も残っていることに驚きを覚えます。
準備を整え、いよいよ行場への道を辿ります。
愛染明王堂、愛宕大権現、毘沙門天王、女人堂と続きます。女人堂を過ぎたら、いよいよ行場の始まりです。まずは「油こぼし」から。見上げると、ほぼ垂直に立っているではありませんか。開口一番「これを登るの?」、いつもはクライミングシューズで登っているのですが今回は登山靴での登攀です。 
思い起こせば20年前。登山を始めてすぐのころ「山をやるなら岩登りもするように」と地獄谷のゲートロックに連れていかれ、足の掛け方、手の持ち方、ロープの結び方、登攀のシステムなどを叩き込まれました。隣で他のチームがクライミングシューズを履いているのを見て、シューズの効果を知り、「あの靴を買いたい」と申し出ると、「まだ早い、一年間は登山靴で六甲山界隈の岩場を登ってもらうからクライミングシューズは今は要らない」と言われたのを思い出しました。
どんなことがあっても大怪我をしたり命を落とすようなことがあってはいけません。「エイヤッ」気合で行くようなことをしてはいけません。「無理と思ったら早めに遠慮せず言ってね、ロープ出すからね」と、言って出発しました。「行けるだろうか?」の不安が一番危険なのです。滑落したら生命にかかわります。万が一滑るようなことがあっても最小限に止めなければいけません。打撲や擦過傷は想定内ですが、無傷で終えなければ楽しさ半減です。
油こぼしを登ります…体に命綱が付いてないので滑ったら下まで滑落です。20mくらいでしょうか
油断をすると生命を落としかねない危険な箇所もあり、真剣に進んでいきます。いつもは私達を和ませてくれるジョンのギャグも今回は封印です。「出迎え不動明王像」が、名前の如くお出迎えしてくれました。
迂回路もありますがみんな正規ルートの油こぼしを選び無事越えることができました。Junkoちゃんと靖ちゃんが、口をそろえて「A懸岩にトレーニング行ってて良かったわぁ」。出発前に六甲山・地獄谷でトレーニングをしていて良かったです。不安のまま山行を実施すると怪我の原因となります。いつもの山行なら、足場をしっかり見て、鎖はバランス程度に掴めば大丈夫です。(ところが今回はそうではありませんでした。クサリはガッツリと握りしめて進まないと前に行けません)
油こぼしを越えると行者尊が待っていてくれました。思わず「ありがとう!」と手を合わしました。まずは表行場の入門試験に合格した気分です。行者尊からは難所と言われている岩屋本堂へ向かいます。
鐘掛岩・トップは姫が行きます  二番手は Junkoちゃん
3番手は靖ちゃん ラストはJONが行きます
岩屋本堂は大きな岩が崩落によってくり抜かれて出来た中に御堂があり、その横の岩壁を登って行くのです。岩屋本堂の右にある鐘掛は自然にできた、お母ちゃんのおっぱいの様なホールドが点在していました。昔よく言われました。「そこの乳首のような岩の突起に足を掛けろ」「そこの岩の突起を持って立ち上がれ」
怖いと感じたらロープを出す用意はいつでもできていますがここでは大丈夫のようです。下から見ると手足を置く場所は充分あります。無理ならば迂回路もあります。
意を決してスタート。しかし見上げるのと、実際に登るのとでは違い過ぎて早くも悪戦苦闘のスタートです。姫が先頭を登り上からシュリンゲを繋ぎビレイをする体制が整いました。しかし驚いたことに誰一人としてシュリンゲを頼る者はおらず勇ましく登ってきました。鐘掛岩は無事に通過しました。
「良しこの調子でこれから出てくる行場も巻き道は使わず直登しよう!」
先ずは姫のビレイでJONが上がります  上にいるJONのビレイでJunkoちゃんが上がります 
岩屋本堂に覆いかぶさる御笠岩のうえに上がるのを失敗すれば30m程下の谷へ真っ逆さまです。確実に命はないものと思います。鎖からランニングビレイをとりロープで安全策を講じて姫のビレイで、先ずはJONが登ります。幸い本日は後続者がいないため慌てることはありません。ここで落ちようものなら警察、消防、病院と何十人の方々に迷惑を掛けることになります。それ以上に飯福田寺さんや今後此処を訪れる修験者さんや登山者に大迷惑をかけることになります。安全第一です。
岩屋本堂の笠となる岩へ登るのがまさかの正規ルート。落ちれば生命が危険にさらされる最大の難所です。「下を見ないでっ!」クサリはありますが手が離れた時の事を思うと、ここはロープで確保した方がよさそうです。「時間がかかっても安全に行こう!」
ジョンがロープを出しリード、姫がビレイをしジョンが登り始めました。登攀中のジョンの姿も見えず声も届かずでロープの手応えだけを頼りに送ります。しばらくして「ビレイ解除」 そして少し間をおいて、「どうぞ」のコール。ここからは上でビレイをしているため、写真撮影に専念します。まずはJunkoちゃんが登りました。続いて靖ちゃん、最後は姫。安全地帯に来ると安心したのか、喉がカラッカラでくっつきそうです。水分補給をし、しばし放心状態です。ここでちょっと休憩をとり、張り詰めた緊張の糸をゆるめました。行場の不思議な力を与えて貰った気がします。
上にいるJONのビレイで靖ちゃんが上がります 最後に姫がJONのビレイで上がります
このシステムで登攀を繰り返せば万が一の時でも谷底まで落ちていくことは有りません。ビレイポイントまで上がって行き、「前を通って進んでいって、もう少し行ったら上に上がれるから」JONの言葉に 従って前を通る時の怖いことこの上ありません「後ろ行かして」「後ろを行かしたら俺が怖いやろう」そう言いながらも後ろを通過するのにはビレイヤーの向きも変えなければなりません。谷側を通過して御笠岩の最上部に上がる時、思わず 「怖ーい。スリングスリング」
 この碑は車道から見えます。最下欄の写真でご確認ください   岩屋本堂の御笠岩の上でしばし休憩
 次に出てくるのが抱付岩です。ここは短いのですが落ちたら大変です。万全を期してロープを使います。一番手の姫の登攀は下の立木の根元からランニングビレイをとってJONがビレイをします。こうしておけば万が一落ちた時でも抱付岩の基部で止まります。もしロープでのサポートが無ければ30mは滑落します。大丈夫と思ってもロープセットしたら全員同じ方法で登ります。
此処で落ちたら怪我をします  上でのビレイだから安心だあ 大丈夫上でビレイしてるから  JONと言えどもロープをセット
抱付岩を過ぎ亀岩までは尾根上の平道が続きます。何の危険も無い、見通しもほとんどきかないハイキングルートです。でも油こぼしは登り切らないと、ここまでは来ることができません。
小天井を過ぎたところでモグモグタイムです どうしたの後ろ向いて … 一昨日買ったザックを見せたくて!
そして小天上に到着しました。どの岩場も同じ形はなく、それぞれに難しく、ロープを出したり、引っ込めたりしながら進んで行くと尾根に出ました。少しホッと出来る場所もあり大天井にある広場を見つけ僅かな時間モグモグタイムです。休憩後再び歩を進めます。緊張の糸は再びピーンと張り詰めたままです。

大天井から小さなアップダウンを繰り返していくと、また行場が現れました。「亀岩」と書いてあります。「あっ亀みたいやわぁ!」亀岩は亀の背中を歩いている感じで歩きやすいですが左側が切れ落ちた場所なので油断はできません。前方には次に登る鞍掛岩が見えています。鞍掛岩はアルプスの不帰の剣の様ではありますが風が無ければ普通に通過できました。(ちょっと身体も慣れてきた感じがします) 
亀岩です ここから再び岩場が始まります 亀岩の上を歩きます…あれに見えるのは鞍掛岩です
鞍掛岩を登ります
蟻の戸渡り
 鞍掛岩から蟻の戸渡へ続きます。蟻の戸渡の看板は薄くなっていて読めませんが順番から間違いなく蟻の戸渡です。ここからの下りは急降下のため懸垂で降りることにしました。事故発生率は下りが多いので注意をして進みます。
小尻返し
受付所で説明して貰った小尻返しの展望地に到着しました。岩屋本堂も見えています。修験者は鎖を使わずに歩き何人もの人が命を落としたそうです。小尻返しから飛石が見えて来ました。景色も楽しみたいのですが「次に出てくる岩場はどんなん?」と気になって、景色をあまり楽しめていません。ただ凄すぎることは体感できています。

小尻返しの下りは結構きつい鎖場なのでロープを出して懸垂下降をしました。どこの岩場付近か緊張して覚えていませんが、調子よく歩いて行くと、空中の懸垂の場面に直面しました。「あかん!降りれません!」馬の背に姫、Junkoちゃん、靖ちゃん、ジョンと一列に立っています。姫がやっとの思いでピンにシュリンゲをかけました。ジョンが先頭に行くために順番を入れ替えるのですが何せ狭い馬の背の上・・・怖かったです。ジョンがシュリンゲを持ちながら下降し、ロープをかけてクライムダウンせよとのことですが足が前に出ません。「オレを信じろ!大丈夫だ!降りて来いっ!」・・・頭ではわかっているのですが足が前に出ません。かなりの時間を費やして全員が無事降りました。足元を見れば多くの人達が飛んで出来たくぼみがありました。 
小尻返しから谷間を挟んで岩屋本堂をのぞむ  赤の点線の通りに左から右に登って岩屋本堂・御笠岩の上に立ちました
知恵の輪を行く 
これが飛石か?。そうですここが飛石です   垂直の懸垂下降は安全なのですが緩傾斜の所は左右に振られる危険が伴います
平等岩を過ぎると岩場も終わりです
 元居ヶ原の小広場からは岩屋本堂が奉拝できます。岩屋本堂からグルリと一周したことになります。
白山比咩神社跡地から見た岩屋本堂 白山比咩神社跡地への階段
137段の階段です。ここを下るとゴールが待っています。午前10時に出発してゴールが午後2時なので4時間かかったことになります。(想定内、想定内、安全第一)
無事ゴールです 良かった良かった 上:車道から見た岩屋本堂 下:三重近鉄タクシーさん
受付所に下山報告をして、裏行場には行かない事を告げました。裏行場へは表行場を成し遂げた人にしか説明しないらしいですが、私達は表行場だけで大満足です。往路でお世話になった三重近鉄タクシー会社さんに迎車をお願いして、待つ間に遅い昼食となりました。山の中では緊張の連続で、お腹が空いていることを忘れていました。

松坂駅まで戻りましたが・・・松阪牛を食べるでなく、赤福を買うでなく・・疲れ果てて電車に乗りました。疲れ果ててはいますが大満足という大きなお土産をみんな貰いました。かなりきつい山行でしたがチームワークが取れている事が今回の山行の成功に繋がったと言えるのではないでしょうか。
 姫の感想
岩場・鎖場大好きの私にとって伊勢山上は文句なしの最高の山でした。みんなが怪我も無くゴール出来た時、ちょっとウルウルしました。決められたコースを何度も何度も練習するフリークライミング、岩山にあるルートを繋ぎながら通過するアルパインクライミング。今回の山行に名前を付けるとしたら「恐怖の行場クライミング」と名付けたい。看板のついてある行場全てが危なかった・・雨でも降れば間違いなしに落下。強風が吹けば間違いなく転落。幸いに晴天と時折吹く横風が有ったぐらいで、ほとんど無風状態の中を通過出来たことがラッキーでした。食いしん坊の私達が昼食をとるのを忘れていたんですから・・・。行けて良かったです。馬の背で二進も三進も行かなくなり、前後の人間入れ替えの時の恐怖は、あの時、あの場面にいた者しか伝わらないけど・・滑落しなくて良かった!ジョンさん~「オレを信じろ!大丈夫だ!降りて来いっ!」って言ってくれたのに信じられなくて躊躇してゴメンね
 靖ちゃんの感想
今朝は 寝坊したよ筋肉痛が先週よりキツイー‼️。一週間前芦屋の地獄谷でトレーニングをしたことが大変役に立ちました。
岩谷本堂横の鐘掛を登る時、はじめて一瞬ビビったけれど、本堂の岩屋根に上がる時には少し落ち着きを取り戻しルンルン。お昼食べるのも忘れて、次々現れる厳しい行場を時間はかかったけれど無事通過、お陰様で怪我も無くゴール出来ました。
 Junkoちゃんの感想
飯福田寺の表行場は思った以上に大変なところ。背が届きにくかったり、懸垂下降で振られたり、多少「オオッ」という場面もありましたが、バックアップのロープに助けられ岩場を楽しむことができました。ロープでのサポートがなければあのような所には行けません。次の日は筋肉痛に悩まされるなあ思っていましたが、案の定、翌朝は大変。
「まぐろがよく魚河岸で並んでいるでしょ、あの状態ダル~イ、恐怖に耐えた昨日、面白かったでーす。」 マグロなんて高価なものに例えるなあ~って影の声。
 JONの感想
飯福田寺を知ったのは20年ほど前になるでしょうか。一度訪れてみたいと思い、姫に行こうかと誘ったところほとんど無視状態。それが今年の2月頃、「テレビで見たんやけど、岩場の有るお寺さんに行ってみたい」と言い出した姫。「どこのお寺さん?」「何処にあるの?」って聞いても 「?????」。 数日して飯福田寺ホームページのURLをおくり 「此処と違う?」「そう、此処此処」「おいおい。昔行こうって言ったで!」 そんなやり取りの中、今日の山行が決定したのです。

アルパインクライミングとはシステムが違うもので少々戸惑うこともありました。平素から「鎖があっても、触るな持つな、残置された物に触ってはいけない」 と言っている手前、鎖は持ちたくなかったのですが、命綱がかかってないので、思わず握ってしまいます。アルパインクライミングなら差し詰め4ピッチ目にあたる岩屋本堂に覆いかぶさる岩のルーフ、御笠岩に上がるときがこのラインのクライマックスだったように思います。大峰山・山上ヶ岳の表行場・裏行場よりはるかに険しい行場でした。
でも事故が2011に有ったのみでほとんど無いのは仏の道だからでしょうか。
ハイカーやクライマーも多く訪れているようですが、ここは修験者の荒行の地であることを忘れてはいけないと感じた次第です。