2017
 
八ヶ岳・八雷神祭 (やくさいかづちのかみさい)
「ロープウエイで登り、ロープウエイで下る、そんな楽チンな夏山行きたいなぁ!」と、熊野古道歩きが終了したころに岳友から出た言葉に「どこがいいんだろう?ロープウエイだとポツチーも一緒に行けるし・・・」と検討しておりました。
7月の塩見岳山行の付き添いで三伏峠小屋にテント泊したときの事です。「肉祭りパーティ」で盛り上がっている時に、宇都宮チームから小屋締めまでに青年小屋に再度行く予定だと聞きました。私達の仲間がロープウエイを利用して「歩かない登山」がしたいと言う話をすると、じゃあ一緒に青年小屋に行こう!と言う話になりました。宿泊予定の青年小屋はオーナーのギター演奏が聴けるとの情報を得て、姫の首がキリンさんの様に伸びました。耳は象さんの様にダンボになりました。
日本百名山を制覇し、かねてから行きたかった山小屋「青年小屋」に宿泊できるのです。ずーっと昔から憧れの小屋なのです。山小屋の軒先にかかる赤ちょうちん。そこには「遠い飲み屋」の文字の提灯がぶら下がっています。呑み助ではありませんがフラリと立ち寄ってみたくなる雰囲気です。
利尻岳で初顔合わせとなったjunkoちゃんにも再会したい、まだ見ぬ昔の乙女靖ちゃんにも会ってみたいと言うリジュとトモのお誘いもあり決行することにしました。ところが靖ちゃんが膝を痛め回復には時間がかかること、無理をすれば悪化することから靖ちゃんは不参加となりました。
編笠山は南八ヶ岳の最南端にあります。長野県と山梨県の境に位置し、標高は2523,7m。名前の通り、頭にかぶる笠の様に、なだらかな形をした山だと想像できます。編笠山の一番近い登り口は観音平の駐車場で、その標高は既に1580m。山頂までの標高差はおおよそ1000mで、距離は3,4km。
地図に書いてある参考タイムには、登りが3時間10分、下りが2時間25分。
そんなこんなでjunkoちゃん、ジョン、姫の3人は大阪三番街を午後10時の夜行バスに乗り翌朝の午前7時には茅野駅に到着です。茅野からは宇都宮チームの車に便乗させてもらいます。既に宇都宮チームは到着しており、満面の笑顔で出迎えてくれました。「お久しぶりっ!」って言うか7月に三伏峠小屋で会ったばかりなんですが。(笑)
先日の「ポストを開けてびっくり広島土産」のお礼も、ねんごろに言い観音平登山口に向けて車は出発しました。途中で朝食のためにサービスエリアに立ち寄り、腹ごしらえを済ませました。小屋泊なので荷物は軽く快適に歩きたいと思っています。しかし防寒着がリュックのスペースを占領するため見た目はかなり重そうです。出発前に計ったら10㎏ありました。帰りは思い出も詰めて帰るのでもっと重くなりそうです。
 ●第1日目 10月28日(土)曇りのち雨
観音平駐車場(1500m)08:10⇒雲海展望台(1880m)09:47⇒押手川分岐(2090m)10:45⇒編笠山頂上(2524m)12:40⇒青年小屋(2380m)13:40  泊
台風22号と、どこで出合うのかヒヤヒヤドキドキでしたが曇り空の中、観音平駐車場を出発しました。
観音平駐車場 ▲いざ編笠山・青年小屋へ向けて
いよいよ出発でーす ▲八ヶ岳横断歩道案内図
今回のメンバーは宇都宮チームのリジュ&トモと大阪チームのjunkoちゃん、ジョン、姫の5人です。「昼には到着するだろう」と周囲の光景を楽しみ山の空気を楽しみながら高度を上げていきました。
しばらく歩くとポツポツと雨粒が顔に掛かり始めました。登山道を外れ、雨具を着ていると後続の2人組も同じ様に雨具を装着していました。「お先にどうぞ」と道を譲り1時間ほどで雲海展望台に到着です。あいにくの天候ですので展望は有りませんでしたが「見えたつもり」で前に進みました。
 展望台から1時間ほどで押手川分岐に到着です。苔を手で押したら清水が湧いたところから押手川と名前がついたそうです。宇都宮チーム曰く「ここから直接青年小屋に行ってもいいよっ!」「いやいや折角だから編笠山の頂点に挨拶してから行こうよ」はやる心を落ち着かせて、まずは編笠山方面へと進みました。樹林帯の中を歩き続けていると大きな岩が登山道に現れてきました。「おっ頂上は近いぞ」と思ったのですが細くて岩がゴロゴロした道が果てしなく続きます。「まだかな?」と上を見上げる回数が多くなってきました。こうなると疲れて来た証拠です。鉄のハシゴが見えてきて最後の休憩をとり体制を整えてから登ることにしました。ここからが長かったです。あのおとなしいjunkoちゃんが登山道に向かって「もうっ!しつこいなぁ!」とぶっ放していました。(笑)それほどに長く感じたのです。この日の通過者は2人組のグループと長靴をはいた8人ほどの山姥チームだけでした。駐車場に有った車の人達は既に到着しているのでしょうか。下山者も数人に出会いました。「おはようございます」と声を掛けるも「応答なし!」山のマナーを知らない様です。
▲甲斐駒ヶ岳  
 ▲仙丈ケ岳と鋸岳  
▲ 北 岳  
▲南アルプス遠望
やっとのことで頂上の看板が見えてきました。「着いたよ~っ!」頂上は風が強くて休憩どころではありません。記念撮影だけ済ませて走るように樹林帯の中に駆け込みました。樹林帯の中は風穏やかです。あとは憧れの青年小屋に向けて歩くだけです。そういえば・・・青年小屋のオーナーに葉書きを出したことを仲間達に話しました。予約時に「多忙だとギター演奏無いかもしれないよ」と言われたらしく、ギターを聴くために青年小屋を訪れることを書き綴り投函しました。伝わっているといいのですが・・。
霧の中で瞬間でしたが青年小屋の青い屋根が見えました。「近いぞ!」大きな石を飛び交わしながらあの夢にまで見た「遠い居酒屋」の提灯に辿り着いたのです。
 青年小屋に到着でーす
すぐに乾燥室に入り雨具を脱ぎ、山ほどに掛かっている雨具を見上げて本日の宿泊者の多さを感じ取ることができました。聞くところによると本日の宿泊者は総勢80名、台風の影響でキャンセル25名だそうです。
編笠山と権現岳の鞍部に建つ青年小屋は、知る人ぞ知る憧れの山小屋です。小屋の入口に提げられた提灯の文字からもわかるように、ここは歩いてしか行くことのできない「遠い飲み屋」なのです。あまり馴染みの登山客で盛り上がられると新客の我々にとっては肩身の狭い「よそ者扱い」となるかと懸念しましたが、ここはオーナーの腕の見せ所、食後のジャンケン大会で大盛り上がりとなりました。この日は八雷神祭があるらしく常連客が、わんさかいました。八雷神祭とは権現岳の槍峰神社に鎮座し、権現岳周辺をいつもお守りくださいますイザナミの大神と八雷神に感謝の気持ちを込めてお祭りをするのだそうです。青年小屋では甲州名物「ほうとう」が、ふるまわれ酒も飲み放題だとか・・・(飲める人はいいよなぁ!)
青年小屋のオーナー竹内さんは、日本を代表する山岳ガイドのひとり。エベレスト(8,848m)やアマダブラム(6,812m)にも登っている山のスペシャリストです。また、山梨県長坂警察署管内の山岳救助隊隊長でもあります。小屋の経営、山岳ガイド、そして遭難救助など、ここ南八ヶ岳をベースにさまざまな活動をされている方で山男の代表と言っても過言ではないでしょう。そうかと思えば夜はギター片手に甘いマスクに変身し、宿泊者の心を魅了してしまうのです。私はオーナーのギターを聴くために大阪から来たと言っても過言ではありません。
前掛けが当たっちゃった マムートのジャケットをゲット  清酒の一升瓶 ゲット  オリジナルTシャツもゲット
夕食が済んだ午後7時30分「ジャンケン大会始めますよ~!」とスタッフが声をかけに来てくれました。「おっ!いよいよだね」そう言いながら食堂に行くとテーブルの上は所狭しとプレゼント品の大きな山。オーナーに勝った人が賞品をゲット出来る仕組みです。産地の賞品説明もあり冗舌なオーナーの進行がジャンケンに負けても超愉快に聞こえました。賞品が欲しくてやって来るのではなく共有できる時間を求めてやってくるのではないかと感じました。これまでには多くの山小屋を利用しましたがこれほどにアットホームな山小屋はなかったと思います。ジャンケン大会は意義あるゲームで有ったと思っています。相当な時間と経費をかけてこの日のために収集したであろうことが見てわかります。一升酒、ワイン、10キロ入りの米、味噌、登山グッズにオリジナルシャツ等々、貰った人が嬉しくなる品物ばかりでした。ちなみに私はジャンケンに強いのかMammutのジャンバー、味噌、カレンダーを頂いて帰りました。 その後は日本酒飲み放題の大宴会となりました。
 「山小屋コンサート」
遠い居酒屋のコンサートの始まりです。待ちに待ったその時間がやってきました。酒の好きな人は飲むと言う目的があります。しかし飲めない私はオーナーの奏でるギターと歌声を聴きにやって来たのです。「みんな静かにしてよね」いよいよギターとハーモニカの音色が聞こえてきました。ジャンケン大会でかなり大声で頑張った結果、声帯を痛めてしまった様子で辛そうです。しかし、その少しかすれた声もまた素敵なんです。「待ってました!」心に響く音が山小屋の窓ガラスに、壁、窓際の槇に、ワイングラスにも吸い込まれそうでした。ザワザワしているため前の席に移動し聞き入っていましたが、何曲か歌った後の退座がきになりました。あまりにもザワザワとしていたため少し心を落ち着かせるために一度小屋を退出されたのだと思います。酒に酔い大きな声で仲間達と楽しく語る、それが悪いとは言いません。祭りなんですからね。
しかし今はどんな状況なのか判断できるマナーは欲しいです。思わず「みなさん!静かに聴きませんか?」と爆発しちゃいました。 
その後は自分達の取った行動がマナー違反だったと気づいたのか静かに聴いてくれました。奥様とのエピソードも素敵でした。マイクと言う文明の利器を使わず生歌で聴けてよかったです。ギター演奏とオーナーと一緒に歌った「雪山に消えたあいつ」普段はもっとちゃんと歌えるのに・・・緊張して声が出ませんでした。い~い思い出です。
山小屋の消灯は午後9時と言う門限をこの日ばかりは八雷神祭ということもあり遅くまで賑やかでした。午前1時頃まで小屋の上を通過する強風に怯えていましたがいつのまにか深い眠りに陥っていました。
●第2日目 10月29日(日)雨
青年小屋08:30⇒押手川分岐09:40⇒雲海展望台10:33⇒観音平駐車場11:30ゴール
朝、雨はまだ残っています。強い雨ではありません。台風の影響はなかったみたいでホッとしています。午前7時に朝食を済ませ下山準備をしました。帰りは東回りで下山することにしました。
 8:30 小屋のお客様に別れを告げて観音平を目指します 
「よく、突っ込むやつやなあ」…などと言われますが…雨は好きなんです。
雨の晩秋と言いましょうか初冬の雨と申しましょうか…カメラがエラーを起こしてしまうほどでしたが、これも山。心が洗われるようでした。
青年小屋から押手川分岐に出て雲海展望台を経て3時間で観音平駐車場にゴールです。あんなに満杯だった駐車場には数台の車しか残っていませんでした。
八雷神祭という一番良いときに、青年小屋訪れたようです。
下山後は近くに温泉施設に立ち寄り汗を流しました。脱衣所で「あっ・・昨日の人ね」と声をかけられました。騒ぐ群衆に向けて大声で「静かに聴きませんか!」と叫んだのが印象深かったのかと聞くと、そうではなくてオーナーとの歌声を褒めていただきました。別の方も「昨日ご一緒でしたよね」と声をかけて下さった人もいました。
温泉入浴を済ませ茅野駅に向かう途中で美味しいお蕎麦屋があると言うので立ち寄ることにしました。しかし雨にも関わらず長蛇の列「待つか?待たぬか?」思案しましたが結局列に並び、信州名物の美味しいお蕎麦を食べて茅野駅到着です。茅野駅で宇都宮チームとお別れです。2日間年寄りの面倒をよく見て頂きました。ありがとう。16時10分発の高速バスは伊那辺りの高速道路工事で1時間10分の遅れを取り大阪に戻ったのは23時を過ぎていました。
 【姫の感想
ひたすら頂上を目指す登山とは違い、少し遊び感覚も混ぜた登山がこんなに楽しいとは思いませんでした。百名山を目指している頃は辛くて長い山行ばかりの様に感じましたが、制覇してみると「この年で、よく頑張ったものだ!」と自負したりします。若者達との山行は体力的に大きく差があり、お互いが何かと気苦労があります。しかし、年寄り組は若者へ山の技術を伝承し、若者組は年寄り組に若さという大きなエネルギーをくれる。どちらも形としては残らないが心に響く。
あこがれていた青年小屋は私の期待を裏切ることなく素晴らしい古稀のブレゼントとなりました。楽しみにしていたオーナーのギターの音色は雑踏の中のマイクから出る雑音と違い、歌声は窓ガラスに響き、酒のグラスに吸い込まれるように優しい柔らかな音色でした。「大阪からコンサート楽しみに行きます」と葉書きまで出し、多忙ゆえに「今夜は無し」と言うことの無い様に先手を打っていました。(笑)ジャンケン大会で盛り上げ役に徹したため喉を潰していたにも関わらず何曲も歌って下さいました。突然「一緒に歌いますか?」と声をかけて下さいました。連れがこっそりとお願いしてくれていた模様。厚かましくも「雪山に消えたあいつ」を一緒に歌って頂きました。本当はもっと上手く歌えるのですが・・・(笑)緊張して声が出なかったのがザンネンでした。スタッフの方が「もっと前の席で聴いたらいかが?」と優しく肩を叩いてくれました。みんな、みんな優しいね。遠い居酒屋の遠い山小屋コンサートは夜の更けるのも忘れて延々と続き台風をも吹っ飛ばしました。

ピッケルやザイルを使う山行も減らし 少しづつ終活に入っている私にとって 青年小屋の思い出と竹内敬一様と奥様の心優しさは 我が山岳人生の最終章を飾るのにふさわしいものでした 心より厚く御礼申し上げます
 文:美智子姫