2017
 
  
「ゴジラの背に行きたいのでタイトロープコンテとランニングビレイの方法を熟知したい」と言う若者のために、猛暑の中、六甲山・地獄谷へ出かけることにしました。
六甲山は暑くて夏場のトレーニングには向かない山なのですが唯一「地獄谷」は水が流れておりルートの両方から木立が日陰を作ってくれます。午前6時30分自宅近くでお迎えの車と合流です。この日のメンバーは「クライマー・komeiさん」とロープ師匠のジョンと私の3人です。
ロープの師匠は体力は落ちてきつつあるもロープワークは「ピカいち」と言っても過言ではありません。若者へ伝承することで師匠自身も再確認できるし、金魚の糞の私も良い勉強になります。
高座の滝コースへと続く道は、まだ午前7時過ぎだと言うのにゾロゾロとハイカーが歩いているのには驚きました。猛暑を避けるには早朝スタートが快適であることを知っているみたいです。(でも・・・中央稜歩きは暑いよっ!)
前日の雨の後komeiさんが下見に来た時は水があふれて地獄谷への広場は川の様になっていたそうですが1日経てば水は引いていました。まずはヘルメット、ハーネス等を装着して「いざスタート」です。
この日のロープは9.4mm×50mのシングルロープ
取り合えず半分くらいはザックの中にしまいます
ロープはすぐ出せるようにロープバックに流し込みで入れザックに入れて背負います クライアント役は楽ちんと思いながらもロープは濡らさない汚さないように注意して歩きます
この日の私はビレイして貰う側となり後ろから楽ちん歩行です。とは言うものの前を歩く人のスピードに合わさないとロープにテンションがかかり互いにストレスとなります。ロープが緩まぬように、張りすぎぬように、トップは、たえず後を気遣いながら進んで行きました。いつもの訓練ではトップを歩き、ロープ操作をしながらランニングビレイをとりながら進むのですがこの日は楽ちん、楽ちん。
 コイルに巻いたロープを持ったまま攀じ登るのではなく、
取りつく前に一旦ラストに渡します
 両手を空けた状態で攀じ登ります
ビレイのセットは素早く確実に セット中、ラストは安全なところで待機させます セット完了後、登攀開始
コールは簡単に解りやすく行わなければいけません   「姫さん、待機」「はい」「姫さん、どうぞ」「行きます」など
komeiさんは、研究熱心で、たえずテキストを熟読されておりテキストに載ってない疑問点を解消すべく質問しながら技術を向上させ、腕を上げていきます。
通称サメ岩に到着後休憩。結構な人数のハイカーたちが目の前を通り過ぎて行きます。中には「ここが地獄谷ですか?」と聞いて通過する人もいました。後ろ姿を見ていると危なっかしい恰好で滝を登って行きます。・・・落ちないでね!怪我しないでね!
今回はトップに対するビレイは行っていません。 ラストの仕事はロープを濡らさない汚さないようにアシストします。
ビレイポイントに到着したら、デバイスによるビレイ、半マストによるビレイ、ボディビレイなどどれが適しているを考えてセットします。
ラストの登攀をアシストしたら安全な場所へ誘導します。一段下の方が安全と判断したらロープを緩めながら降ろします。
この場面では肩がらみのボディビレイで行っています
確実にクライアントを怖がらせないように軽いテンションをかけることも大事です
緊張の中での行動は休憩をすることすら忘れてしまいます
適当な場所があれば休憩をとりましょう
ショルダーコイルのまとめ方として いくつかのやりかたがありますが
素早くできる 肩からずり落ちない キンクが少ない スムーズに出せる クライアントに荷重がかかってもボディが締め付けられない等の要素が確実にできていればどんなやり方でも良いと思います。
水平移動の危険な箇所では木や岩角にランニングビレイを取りながら進みます。2か所取っておけば安全ですが場所によってはデバイスビレイが必要な時もあります。
「エイ!やあ!」気合で行くのは危険がいっぱいです。此処で落ちたら無事では済まないと感じたら迷わずロープを出すことが大事です。
初心者を危険なところへ案内するガイドコンテは別として、アンザイレンは双方が理解をしていることが大切です。阿吽の呼吸は必要です
空にはヘリコプターの音も聞こえていました。まさかこんな早い時間に救助ではないと思いますが気になります。
小便滝まで進み、A懸尾根に上がった途端にジョンの頭がク-ラクラ~、負けじと私達もク-ラクラ~。
地獄谷を抜けた途端、熱中症になりそうな暑さです。レーションを頬張り、塩を舐め、A懸尾根からA懸岩に到着。クライミングの練習をしている3人組が岩場を使っていたため、ロープをリュックに仕舞い、第一鉄塔へあがりこの日の講習は終了です。
 状況によってどれくらいの荷重がかかるものかを知っておく必要があります。引いたりぶら下がったりしながら衝撃荷重を体感しておきましょう。
 下りにおいてはクライアントを先に降ろし、上でアシストすることも大事です。
ちょっとおさらい
半マストのオートブロック 半マスト ダブルデミ・キャブスタン
(下へは動きません) (上にも下にも有効ですが手を離してはダメです)  ( ロアーダウン専用、力の弱い人に有効)
オートブロックタイプのデバイスによるクライアントのビレイ パーセルコード・7㎜のロープ
 (クライアントが動けなくなった時など仮固定して救助に行きやすいです) (いろいろな場面で活用できます)
風の無い猛暑日ではありましたが地獄谷講習は快適に終了することができました。
登山口ではウリ坊が餌を探していました。私たちはお好み焼き屋で反省会をしました。
第一鉄塔では中央稜から登って来た人達が休憩していました。その中のひとりが私達を見て「息子さんですか?」親子に見えたらしく、さも羨ましいと言わんばかりに話しかけてきました。「いいえ!お友達です」と言うと不思議そうな顔をしていました。歳の差がありすぎる・・とでもいいたげな表情でした。

講習内容は動画撮影しておきましたので後は復習してマスターしてくれると思います。komeiさんは「知りたい」と言う気持ちが常にあり、教え甲斐があると師匠が申しておりました。若さと体力のみでの山行は、いつかどこかで怪我の原因となります。正しい知識を習得し安全な山行を楽しみたいものです。

komeiさんは、奥様と近々ゴジラの背に行く予定らしいです。(いいなぁ!懐かしいなぁ!)ゴジラの背までひとっ飛びで行けるならもう一度行きたいけど・・・アプローチ長いんだもんなぁ・・・。もう無理っ!

正午近いと言うのに下山中も、どんどんハイカーが登ってきます。「有馬までいきま~す」と言う若者もいました。日暮れまでには到着するかも知れませんが遅いスタートが気にかかりました。
これらのやり方は、あくまで個人の見解で行っていますので、参考程度にご覧ください。
ロープワークにつきましてはベテランの登山者や山岳会、プロガイドによる講習会などで学んでください。
 【komeiさんの感想】
「本当のやり方は、ネットにもテキストにも書いて無い」…常に感じていたことは、先人の知恵と経験に頼るしか無いのが現実です。
形だけでなく、なぜそれが今必要なのか?いつも悩んで考えて、最適な解を見つけて安全に、楽しく登り続けたいですね。
 【姫の感想】
3000m級の頂上直下は必ずと言っていいほど岩場の登攀となります。頂上直下でなくても岩場は度々お目見えします。クライミング技術がなくても登れますが、知らないより知っている方が絶対に安全です。同行者を安全に通過さすためにはリーダーとなる人はロープワークの腕を磨いてほしいと思っています。私がロープに関心を持ったのは沢登りの途中でジョンが突然ロープを放置して前に進みました。「えっ?これどうすればいいの?」30mのロープを抱えて歩くには至難の業でした。絡むし、手から滑り落ちるし、四苦八苦しながらロープを抱っこして歩いた記憶があります。「これではいかん」と、そこからロープワークに火が付いた様に思います。師匠は「そろそろ自分で操作させる時期だ」と思っての事だったみたいです。何かのきっかけでロープの勉強をすれば奥が深くて楽しいものです。パートナート共に学んでいくのも楽しいものです。
 文:美智子姫