2016
「金毘羅山 Y懸尾根 7ピッチ全部リード・・・出来たがなぁ!やれば出来るじゃないか!」
私のブログ「4282回 疲れた~」を読んだジョンが、私のストレスが爆発しない間にとプライベートのアルパインクライミングに誘ってくれました。天候は不安定で京都まで出掛けて雨だと勿体ない気もするのですがせっかくのお誘いのため急きょ、出かけることにしました。当初は「夏トレーニング7回目」を予定していましたがメンバーが揃わず中止となり、幸いにも14日の予定はスッポリと空いていたのです。「京都・金比羅山」は5月にkoumei さんからお誘いを受けて行ったばかりの場所です。
京都金比羅山は非常に古くから日本のアルパインクライミングの練習場として有名で多くの人達に利用されています。土曜日、日曜日ともなるとロープを垂らす場所かせないほどに混雑しています。14日は平日とあって駐車場には1台の車もありませんでした。「今日は空いていそうだなぁ」帰りは金比羅山から翠黛山(すいたいさん)に廻り、寂光院へと下るコースを企画しました。寂光院近くの駐車場で300円を払い江文神社入口に向かいました。前夜に大量の雨が降ったのか道路は濡れていました。落ち葉が足元を滑り易くさせていてとても危険です。岩場が濡れていたら危険だなと感じましたが太陽もお目見えしており岩が乾くのも早いだろうとアルパインの準備をし、いざ出発です。
あかん腹が出てるワ 年を隠して頑張ってますョ 1ピッチ目のスタートです 今日はビレイに徹しますョ
「ジョンがリードしてくれるんやね?」姫に決まってるやろ!」「えっ?私?自慢じゃないけど六甲山・A懸岩しかリードの経験ありまっせぇーん!」押し問答をしているうちにジョンはビレイの準備に取り掛かりました・「あかんわ・・どうあがいてもリードさせる気やわ。じゃあ難しいピッチはお願いしますよ」と言いましたがジョンの返事はありませんでした。5月の時はkoumei さんがすべてリードをしてくれて楽しい楽しいクライミングでしたが今回は様子が違いました。意を決して「1ピッチ」のスタートです。
「何処を終了点にしてもいいけど、フォローが見えるところで切ってねー」その言葉をかみしめるようにしながら、ここはどうにかスムーズにランニングビレイを取りながら登攀。終了点を構築。続いてジョンが登ってきました。
1ピッチ目の終了点は傾斜がきつくなる手前で取りました ビレイポイントでのカラビナロック
釣瓶方式なら次のリードはジョンのはずです。しかし到着するとすぐにメインロープでビレイを取りロープを振り分けていきます。まるで私にリードで行けと言わんばかりです。雨で濡れた岩はまだ乾いてなくて前回はスムーズに登れたのに今回は怖くて登れません。何度も足踏み状態を繰り返しましたが容赦なく「行け」と言う無言の合図が飛んできます。慎重に乾いた岩を選びながら「2ピツチ」目を完了。
 2ピッチ目の終了点  2ピッチ目の終了点
3ピッチ目を行きます
 京都大原 戸寺の町を眼下に見ながらのクライミングです
3ピッチも完了。4ピッチ目も難なく完了。少しづつロープ裁きも時間短縮できるようになり呪文の様に「自己ビレイ取ったら『ビレイ解除』とコールしてロープアップ」と手順を間違わない様に心の中で繰り返し呟いていました。

続いて「5ピッチ」目は、前回koumei さんが考案した「草付きルート」です。今回は通常の真ん中のくぼみのあるルートを登ることにしました。下から見上げると手も足も沢山置く場所があり楽勝ムードでした。ところが、ところがなんです。私は背が低いため手を置く位置があと少しのところで高くて届きません。何度も何度も挑戦し泣きたくなるほどでした。でも諦める気はないのです。諦めると悔しさだけが残ります。姫が最後の手段に出ました。とうとう「リュック置いて登ってもいい?」と言いだす始末です。「いいよ!」 あまりの喘ぎに可愛そうに思ったのでしょうか、8㎏の荷物を背中から外すと難なく登攀できました。それからリュックを引き上げるのですが重たくてなかなか引き上げられません。ガリガリゴリゴリとリュックが岩場に当たる音がしています。かわいそうなリュック・・・やっとの事でリュックを引き上げました。滑落した負傷者をロープで引き上げる苦労を垣間見た気がします。
ここは簡単なのでコンテニュアスで進みます…それでも気を付けて
4ピッチ目難なくクリアです…快適快適…アルパインはサイコウ
ハーケンも古い 無いよりは まし程度 そっちは簡単な方だから左にいこう
5ピッチ目の終了点に、ジョンが上がって来たので「少し休憩させてほしい」と頼みました。「ああいいよ!」許可が出たのでレーションのリンゴやプラムを食べて元気回復です。よく冷えてて美味しかったこと。この時期のレーションは重たいですが生の果物が一番です。私が休憩をしている間にジョンはせっせとセット替えをしています。「休憩終わったら懸垂下降で降りて、もう一度登っておいで。このままだと5ピッチ目は、トラウマになるよ」 ストレス解消に連れてきたのにストレスを残してはいけないとの配慮でした。「懸垂下降?」懸垂下降大好きの姫の目が輝きました。アッと言う間に懸垂下降で降りて、苦労した箇所が2回目はスムーズに登れました。リードの重圧から解放された事と空身であると言うことが、これほどまでに快適に登れるのです。
 「6ピツチ」目もスムーズに完了しました。 「7ピッチ目」の終了点に向かいます。ここを攀り切ったら終了です
「5ピツチ」目もスムーズに完了しました。6ピッチ目は少し長いラインですが、難しくもなく快適なラインです。終了点が見えてきました。こうして6ピッチすべてのピッチのリードを無事終えたことになります。「やったー!」ロープを解除し終了点に着いたらゲレンデには誰もいませんでした。日陰は涼しい風がご褒美の如く爽やかに吹いています。お弁当を食べようとしたものの、空腹なのに食欲が湧きません。疲れすぎているみたいです。甘くて冷たい紅茶をガブガブと飲んだだけでレーションも口にすることが出来ませんでした。「さあ今から動画撮影するぞ」「え~っ?」 終わりではなかったのです。空中懸垂を2回、別のゲレンデの懸垂下降も1回行い撮影完了。もうヘロヘロです。足も手も攣り気味のため「ツムラ68」の力を借りました。「ツムラ68」とは漢方薬で即効性があり登山の救急袋には必携アイテムなのです。空を見上げると雲行きがあやしくなってきました。 
 Y懸尾根の頭で反復練習です
苔に見とれて姫がコケたョ 鹿除けフェンスに右往左往 寂光院の近くまで降りてきました 👆動画をご覧いただけます
午後2時下山開始です。前回の道へは下山せず、金比羅山頂上を経て翠黛山の合流点から寂光院へ向けて下山することにしました。「下山はくだり坂」のイメージに反して、何故かきつい登りが続きます。このコースは殊の外、長くてつらい道のりでした。おまけに途中で雷の音も聞こえ、とうとう雨が降り始めました。時間は3時を過ぎたばかりなのにヘッドライトが欲しいほど薄暗く感じました。2時間以上歩いて、やっと遠くの方に寂光院の屋根が見えてきました。「出た!出た!もうすぐやね」赤いリボンに誘われるようにイノシシ除けの金網沿いに付いている足跡を頼りに20分ほど歩いて「あれっ?この道、間違ってるよ!」「そんなことないよ!赤いリボンの目印があるよ」「いや、この道は登りの道で寂光院から、どんどん離れて行く」間違いに気づき金網の最初のところまで引き返しました。何と、よく見ると金網にドアらしき箇所を発見しました。六甲山のゴルフ場付近のドアの様に「ドアです」と一目瞭然にわかるのではなく、金網と一体化しており、おまけに薄暗いため完全に見落としていたのです。「もっとハッキリとしたドアの目印いるよねっ!」と文句を言いながら自分達でドアを開閉して寂光院に出ることができました。無事、寂光院に到着したときには既に5時近くになっていました。あまりにも時間がかかり過ぎたので「次回からもうこのコース利用しないでおこうね」二人でそう呟きました。寂光院から大原の町並みを通り抜け駐車場に戻ってきました。駐車場で下山報告を送信し、汗臭い衣類を着替え、駐車場のお爺さんに声を掛け、物産店に立ち寄りました。ジョンは餅を買い、私は地卵とトマトを買いました。渋滞の湖西道路を走り、またまた渋滞の阪神高速を走り、自宅に着いた頃にはドシャ降りの雨の出迎えを受け、辺りはすっかり暗くなっていました。風呂場に合羽とリュックとヘルメットを持ち込み、残り湯で汚れを落とし、登山靴も洗い、すべてを終えてベッドに入ったら午後11時を過ぎていました。
よく遊びました!心地よい疲労感が睡魔を・・・・5分で意識な~し
 
 JONの感想
アルパインクライミングで岩場を攀るとき、自分の体力・技術で攀り切らなくてはいけません。スタートした時は下のビレイヤーがスポットに入っていますが、それも2m~2m50cm位の間です。それから上はクリップをしながら登っていくわけですが、技術的には大丈夫と太鼓判を押していても、岩場の中にピンがあるとは限りません。こんな時、此処で落ちたら?などと考えると、恐怖に陥りパニックを起こすこともあるのです。しかしメンタル的なものは自分の精神力と経験回数で克服しなければならないのです。
ゲレンデのトップロープやリードクライミングでの練習と違い、アルパインの中では声さえ届かないこともあるのです。しかし目的を達成したらサイコウです。
次回、このラインに入った時は難なく通過できるでしょう。ただ今回よりもアドバイスは減ります。さらに考えてガンバレ
 姫の感想
全行程リードなんて前代未聞でした。「1ピッチでもオイラが手伝うとリードしたことにならない。頑張ってみいやっ!」そんな師匠の言葉を励ましと捉え、決心をしてのクライミングでした。他に登攀者がいると渋滞を起こしますが誰もいないゲレンデでのチャンスだと考えると貴重な体験でした。北岳バツトレスの全行程をリードで登った若かりし頃の師匠の凄さを思い出しました。アルパインルートは随所でロープ操作の使い分けが必要です。ロープワークの原理を知り適材適所で使い分けるにはまだまだ勉強が足りません。渋滞中の車の中でも復習をしながら帰ってきました。ロープ操作は奥が深くて、とても面白いことを再認識した充実の1日でした。
文:美智子姫