2016
「登山への第一歩」 LESSON 5「KEI君登山教室いよいよ佳境に突入」
4月29日は前日の雨も上がり、汗ばむほどの良い天候となりました。登山の基礎を学びたいと言う若者の熱意に押されて始まった講習でしたが我々山の経験者も忘れかけた基礎を目覚めさすのに共に学び、共に訓練を重ねてきました。「え~っそうだったのか」と気づくことも度々ありました。KEI君も常にメモを取る熱心さでメキメキと上達し座学で学んだクライミングの基礎「エイトノット」は一人で結べるようになっていました。29日はゴールデンウイークの突入日と重なり阪急電車芦屋川の駅前広場は大勢の人が待ち合わせていました。集合時間前に全員の顔が揃いました。この日のメンバーはKEI君、ヒカルゲンジさん、ジョン、ひめの4人です。
高座ノ滝 地獄谷の入り口で準備をします
滝の茶屋に到着すると、すでに汗が滲んでおり衣類調整をする始末です。「こりゃ今日は暑さにやられるなぁ」ほとんどの人は中央稜にむけて登って行きます。老若男女さまざまです。地獄谷入口でハーネスを付け、ロープを出し、パートナーチェックを終え準備が整いました。今回は、山行を共にする機会の多いKEI君、ヒカルゲンジさんがアンザイレンで進行します。ロープ裁きはリードする方とされる方の息が合わないとスムーズに行きません。私は何回もジョントアンザイレンを組み、その都度ロープをもつれさせ、「もたもたするなっ!」と叱られ、同じ失敗をしない様に頑張った日々を思い出しながらこの日はフリーで前を歩きながら見守りながら写真係をしました。KEI君、ヒカルゲンジさんはアンザイレン初体験のため、スムーズに行ってない様子ですが当たり前だと思います。最初はロープに操られていましたがゴール近くになるとコツを覚え一生懸命が応援してくれ次回からは2人で来ても大丈夫になるほど上手くなっていました。
アンザイレンは、一の練習、二に練習、三四も練習、五も練習。コンティニュアスで進む部分とスタカットで進む部分を見極めることが一番大事です。
双方が確実な知識と練習を積み重ねてこそ、できる登山技術です。
こんな危険なルートを通るハイカー 安全のうえにも安全を…
途中で爺・婆・娘・孫と見受けられる4人組が追い抜いて行きました。最近、雑誌に地獄谷を「大人のアスレチックコース」と紹介されているらしく誰でも気軽にスニーカーで地獄谷に入って来るようです。既に最初の滝のところで立ち往生しています「大丈夫かいなぁ?」と見ていると何と危険な高巻コースにどんどん上がって行きました。今まではなかった道が滝の上に付いているのです。しかもトラロープまで張っていて驚きました。沢登りの事故は高巻き時に起こると言われるほど不安定な道なのです。滝の中を歩けないのなら、わざわざ地獄谷コースを選ぶ意味がわかりません。
「ヒカルゲンジさんが先に登り、KEI君をビレイする」を、何度も繰り返し小便滝まで到着しました。ここでアンザイレン解除です。A懸岩の手前で外国人の2人連れが道に迷っている様子でしたので声を掛けました。風吹き岩に行きたいとの事でしたので直登すれば第一鉄塔と合流する道、また、ザレ場を通過して行く道もあることを教えました。「ナンドモ来テイルガ、フツーノ道ハ、オモシロクナイ」と言うのでザレ場の入口までジョンが案内を買って出ました。
春山のトレーニングメンバーさん達 時にはヘツリの練習をしながら
かつては近代登山発祥の地として多くのクライマーを輩出させてきた芦屋地獄谷ですが、今や多くのハイカーがデイパックにスニーカーでやってきます。死亡事故こそ耳にしませんが年間を通してみると多くのハイカーが大怪我をして救助隊の世話になっています。インターネットで紹介されたり、ガイドブックを目にして安易に入ってきますが危険極まりない行為としか言いようがありません。
A懸岩中央のコースでは塩見岳に行くためのトレーニングだと言うアイゼンを履いた3人組が登攀下降をしていました。
ピッケルを持って登攀練習しないのですか?」と聞くとアイゼンを履いてクライミングするのが初めてでピッケル持って登るなんてとんでもないと笑っておられました。なるほど…ガリガリと音を立てて岩を削っている理由がわかりました。安全山行を祈っています。
KEIくんの岩場デビュー
私達は左側に支点を作り、KEI君の初めてのクライミングを開始しました。座学効果でエイトノットも上手く結べています。はじめはおっかなびっくりでしたが「誰でも最初はそんなもの!絶対に落ちない!ロープを信用しろっ!」と口々に檄を飛ばし何とか終了点まで登ってきました。問題はここからです。誰しも登りはうまく行くのですが・・・・・ロアダウンで下降する第一歩がなかなか恐怖で踏み出せないのです。「無理です、無理です、怖いです」と連呼するのですが先輩達は黙って笑うだけです。()隣のアイゼンおじさん達までもが「ガンバレ」と声援を送ってくれました。多分KEI君はどうして降りたのか緊張で覚えてないと思います。休む時間を与えずに連続で登攀下降を繰り返しロアダウン、クライムダウンとスムーズに出来るようになりました。隣のアイゼン組が帰ったので中央に鞍替えして午後からは、いよいよ懸垂下降デビューです。その前に腹ごしらえをすることにしました。 
ヒカルゲンジさんのロワーダウン
ランチタイムです。私達の荷物の隣にドカッと腰を下ろした老婆が随分前から、ずーっと座っていて気にかかり話しかけてみると「孫がA懸岩でクライミングをするので到着を待っているのです。孫が来るまで使っていてもいいですよ」と言うのです。(岩場を私物化するな!ゲレンデは先着順や!ルールを知らんのか?)そう思いながらも相手は子供みたいだし、到着するまでは中央のゲレンデでKEI君の初懸垂下降を達成しました。孫連れの爺様たちが到着したので中央のゲレンデを譲り、またまた左側の壁の登攀下降を何度も繰り返し練習しました。左側のゲレンデは岩がもろくて持った岩が剥がれるため結構危険です。
 「おおい~KEI君~まだ登るかぁ?」上から声を掛けると首が横にプルプルと揺れました。時間は午後2時です。「今日はこれくらいにしたろか」の師匠の名セリフがでたところでクライミング講習を修了することにしました。下山途中でも、ひっきりなしに登って来る人達がいて「こんな時間にどこまで行くのだろうか」と首をかしげたくなりました。今日の芦屋の町並みは青空の下で、くっきりと美しく見えています。ところどころにツツジは残っているものの山は新緑に模様替えとなっていました。重い荷物を背負い、足場の悪い道を下り、滝のお地蔵様に無事故のお礼に頭を下げ阪急芦屋川駅に到着しました。広場のベンチで荷物整理を終え下山届を提出し、反省会場所は梅田の「バツテラ屋」を提案すると異議申し立てはなく、直行することにしました。KEI君のクライミングデビューにかんぱ~い!」
次回は終了山行です。企画はKEI君本人が立てて我々を案内するということになっています。
  KEIRA君の感想
本日、アンザイレンとクライミングを体験させていただけました。ありがとうございました。アンザレインはトップの方と意思が通じないと難しいと思いました。今回はトップがヒカルゲンジさんでしたが、これがニワカ集めのグループだとしっかりとしたアンザレイができるものなのか・・。と思った次第です。           
クライミングの方は最初のロアーダウンで(安全は確保されていることを)頭では理解しているつもりでも体と本能が拒否していました。クライムダウンも最初は同様で、肩越しに覗くのがなかなか難しく少し慣れるのに時間がかかってしまいました。登ってきたルートで降りたつもりでも下りでは上手く足が掛けれなくなるなど登りとの違いも大きく感じました。懸垂も同様で懸垂下降あたりでようやく体と本能の拒否を理解が上回って来てました。下降方法では懸垂が一番楽しかったです。懲りずに練習に行って確実に身に着けていきたいと思いました。本日はありがとうございました。
  ヒカルゲンジさんの感想
久々の機会をいただいて地獄谷遡行とA懸尾根での岩登りの体験ができました。地獄谷は時々は登っていたような気がしますが、岩登りは何年振りでしょうか? なにやら夢中で登っているうちに、足に体重を乗せてじわじわ~っとせりあがっていく時の感触を少し思い出すことができました。そしてああクライミングはこれやった~と感じ入り、
「左足に体重載せて~」とか下から激励されている図などが頭に浮かんだりしました。

二人でロープをつないで登る体験をしましたが、スムーズなロープさばきやすぐに確保の態勢に入れるようにすることなど、さらに磨きをかけなければと強く思いました。確保の態勢もそのまわりの環境や危険度を良く見ていろいろな手段を使えるようになる必要があります。いざという時に本当に役に立つことができる技術として今後もしっかり身に付けていこうと思いました。

印象に残っている一番怖かった「事件」を一つ。A懸にて支点設置のサポートに登っていき、指示をもらってアブナイ所まで進んでロープと岩の間にクッションを入れて仕事は終了。やれやれと思ったのですが、さて戻っていくにはこわすぎる。懸垂下降で降りるにはそのロープは1m以上下の方から始まっている。で、やれ困った。さてどうしようかと正直焦りました。
そのうち「ロープ引っ張り上げて懸垂下降の態勢作れ~」との声が下から飛んで、ようやく踏ん切りがつきました。こわごわと重いロープを引っ張り上げなんとかATCに通しました。そこからゆるんでいるロープをじわじわと伸ばしておろしていき、荷重をかけられるところまで1m以上降りていくのがなんともこわかったです。(笑)

ようやく懸垂下降の態勢に入ることが出来ましたがそこでやれやれ。降りていく時のことは覚えていませんが態勢を作るまでがよほどこわかったのか、大きな声では言えませんが、そのあとのクライミングよりも何よりも、一番印象深かったミニ事件でした。

さて、なかまがクライミングや懸垂下降のデビューを飾るところに居合わすことができ、結果としてとても良い体験をされたのがなんとも喜ばしいばかりです。今後どんどんいろんなステージに挑戦されることと思いますがまずは素晴らしいスタートであったことと思います。貴重な機会を作っていただいたJONさん、姫さんに改めて感謝いたします。
   JONの感想
ハイキングのリーダーでも懸垂下降やアンザイレンは登山技術として身に着けておかなければなりません。ハイキング中にメンバーに発生したトラブルは最小限に食い止めなければリーダーとして失格です。リーダーを務めるということは、メンバーの命を預かることと思っても過言ではないでしょう。
どうすれば登山技術を向上させることができるのでしょうか。登山ガイドについて学ぶのも方法でしょう、また山岳会に身を置いて学ぶのも良いでしょう。また山岳書やガイドブックで学ぶのも方法です。何よりも本人が学ぶという心構えを持つことが一番だと思います。
  ひめの感想

「若いし体力あるし別に口うるさいおじさん達に教えて貰わなくても山なんか歩けるわっ!」と言う若者達が多い中、真剣に基礎が学びたいと言うKEI君の姿勢に心を打たれて毎回同行しています。KEI君は、どの山行も、将来、自分が指導的立場に立つ身ゆえに正しい山の知識を身に付けたいと思う責任感が感じ取られました。富士山に半袖・半ズボン・サンダルで登り「寒い」と救助を求めるバカげた若者達もいます。山行中、礼儀正しい若者にも出会います。山のマナーを守り素晴らしい山行を仲間と共に味わってほしいと思います。ロープワークの知識は奥深く興味深いです。テレビを見るように、ケームを楽しむようにロープを1日1回は触って欲しいです。練習の積み重ねが成果となります。頑張ってください。終了参考のお誘い楽しみに待っています。

文:美智子姫