最終回
救急車のサイレンとヘリコプターの轟音の中でのトレーニング
3月10日「午後は雨」の天気予報が気になりつつ集合時間を1時間早めて芦屋川午前8時集合。更に滝の茶屋入り口までをポッチーに車で送ってもらい30分時間短縮する工夫をしホワイトフェイス到着は午前8時30分と日頃より2時間は縮まりました。これで午後からの雨が降ったとしても講習時間の帳尻はピッタリと合うと思います。空は限りなく鉛色。これに加えて黄砂も降り不気味な空模様でした。

Kazuくんのクライミング履歴
●2011年10月16日にA懸岩にて体験クライミングを実施
●2012年 5月19日に佐土新岩尾根にて
●2012年 5月19日に座学
  ここでKazuくんの長期研修のため講習中断
●2013年 3月 3日に山神社
●2013年 3月10日 ホワイトフェイス
さあ登るぞ   ハーネスに8ノットでタイイン パートナーチェックをうけて 
Kazuくんのクライミング講座・最終回のゲレンデを芦屋・地獄谷のホワイトフェイスに決めた理由は、途中で雨が降ってきたとしても、撤収し駅までかかる時間が一番短縮できることも考慮してゲレンデ選びをしました。前回の山神社は「手も足も出ない」「予想しない事故」などを体験し山に潜む危険性を学んでもらいました。
地獄谷の堰堤広場に降りると20人程の小学生と付き添いの大人が4〜5人いて、今まさに出発しかけていたのですが「どうぞお先に」と言ってくれたため先に行かせてもらいました。崩壊したゲートロックの岩場から登ってきた子供達に「子供会?」と聞くと「ボーイスカウトです」
私達がホワイトフェイスの道に入ると後ろからついてくるので「ここは岩登りをする道で君たちはあっちの道ですよ。でも大人より先に歩くと危険ですよ」と言って別れました。
私達の後ろに大人の男性が付いてこられ「有馬まで行くのですがこの道から行けますか?」と聞かれたので岩場の上昇路を教えて先に行ってもらいました。 
歩き始めてからわずかな時間でホワイトフェイスの岩場に到着です。中央稜は天気が不安定にもかかわらず、賑やかな子供達の声が聞こえてきます。前回の山神社とはまた違った岩肌のホワイトフェイスを見上げ「う〜ん」と溜め息を吐くKazuくんの顔に不安げな表情も垣間見られます。 
 いくぜえ 手強そうだなあ  どうにかあがりました 
ハーネスなどの装備をつけ、支点を取り、登攀準備が整いました。最近利用したクライマーがいないのか岩場には小石が無数にあり、まず岩場の掃除から始めました。落とせる小石は全て落石処理をしました。
「さぁ始めようか!最初は真ん中の棚まで行ったらロアダウンで降りよう」朝の一発目は身体が慣れていないためウオーミングアップが必要です。Kazuくんと今日の岩場の相性はとてもよくてスムーズに何度も登攀とロアダウン・懸垂下降を繰り返しました。ビレイもし、師匠がいきなり落ちると言ういつもの芸の披露も受け止めることができました。ビレイヤーの手にかかる衝撃を味わってもらうために、故意に落下して見せたのです。中央稜からは子供達が私達の姿を見つ「ヤッホーッ!ヤッホーッ!」何度も何度も叫びます。あまりにうるさいので一度だけ「ヤッホーッ」と応答しましたが結構うるさくて・・しつこく・・うんざりで〜す。
 懸垂下降です この高さからの懸垂は怖い   怖い〜出てしまえば何とかいける
 登りきったよー…こわかったよー
Kazuくんが懸垂下降中に異変が起きました。師匠が「早く降りて!降りたら姫も遠く離れて!ロープを岩場から離して!」その叫び声から一大事であることが予測できました。支点を作っている周辺の大きな石が落下しそうで師匠が足で押えていますがいつ落ちてもおかしくない状態だったそうです。ロープの上に落石すればロープが切断されて使用できなくなるためロープを持って逃げろと叫んだようでした。大きな石の落下ルート次第では地獄谷を歩く人達に被害が及ぶ危険があるため反対側に持ち上げて安定さす方法を取ることにしました。しかし師匠は不安定な恰好でいるため思うようにいかず岩と岩で、手に擦り傷を負ったのか「バンドエイド持ってきて〜」と叫んでいました。
 クライミングはこれがあるからやめられないワ
 10時を過ぎた頃、突然、救急車のサイレンの音が地獄谷に聞こえて近づいてくる様子が伺えます。「えっ?どこかで誰かが事故ったなぁ!さっきの子供達かも知れないね」と言いながらも登攀を続けていたらサイレンに続きヘリコプターの轟音が、ちょうど私達の上空を何度も何度も旋回しはじめました。ヘリコプターの腹には「ひょうご」と書いてあり、やはり救助のために飛んできたみたいです。登攀を終えて支点個所で待機中のKazuくんに師匠が「手を振るなよ。間違われるからな」と注意をし、私が岩場にへばりついてる姿勢のまま、上を見ると、手を伸ばせば届きそうな低い位置でヘリが旋回を続けていました「ひょっとして私を撮影してる?」「アホッ!そんなわけあらへんわっ!」万が一撮影かもと思うと、何と華麗なムーヴでスムーズに登攀できました(笑)
 登ったり  ビレイをしたり
Kazuくんは5本ほど登攀と下降を繰り返し、上達が目に見えてきます。終了講習にふさわしく、本人も自信がついてきたようです。Kazuくんの体力の限界も近づき、空も怪しげな天気になり最後にKazuくんの懸垂下降で終了しようとしていたその時、懸垂中のKazuくんに突風が吹きブランコの様に振られてしまいました。「右手を離すな!落ちることはない!」と師匠が叫び、Kazuくんは棚に着地し風の動きが一瞬とまったのを見計らい無事下降終了しました。雨もポツポツ落ちてきました。帰り支度をしているとまた突風が吹き師匠が風に吹かれてバランスを崩しKazuくんのヘルメットにしがみつき難を逃れる一幕もありましたが、岩場に取り付いている時だったら危なかったです。帽子やサングラス、お茶ポットなど風にさらわれてしまい回収しながら下山しました。
 これを越すのが一苦労  ちょっと慣れてきましたね 懸垂下降終了…ATCを解除して 
 
上空にヘリが飛来。遭難者を探している模様…絶対に手を振るなよ…遭難者と思って救助隊員がホイスト降下してくるぞ
滝の茶屋までおりてくると、救急車1台、消防指揮車が1台、パトカー1台、少し下ったアスファルト道に消防車両3台が停まっていました。情報によると4人のパーティの中の一人が地獄谷で落下して骨折したとの話・・・それにしても空からと陸からと大がかりな救助体制に驚きました。
もっと驚いたのはポッチーが自宅に帰らず駐車場に待機してくれていたことでした。「荷物も重いし雨が降ってきたら大変なので待ってたよ」との事、助かりました。

何はともあれ2011年10月に初めてクライミングを体験をし、その後4回の講習を本日無事終了しました。講習中の道具はポッチーの物を借り、師匠の物を借りていましたが、「登攀道具を買い揃えたい」とのKazuくんの希望で車で梅田に出て遅めの昼食を済ませ、懇意にしているスタッフのいるロッジに行き「ヘルメット・ハーネス・ATC・クライミングシューズ・カラビナ・シュリンゲ」を購入しました。かなりの高額出費ではありますが
「1回ゴルフに行ったと思えば、今後繰り返し使用でき、命を守ってくれると思えば安い買い物さ」と老先輩たちは自分たちが買い揃えた時の喜びを語るのでした。
自分の道具を手に入れると山への愛着も深まるというものです。
 滝の茶屋あたりはものものしい雰囲気です。骨折でもこんなに人が動くのです。気をつけなくっちゃあ。 
若いクライマーのヒナが誕生しました。道具も買いました。今後の山行にはヘルメツト、カラビナ、シュリンゲ等を携行し安全登山を楽しんで頂きたいと思います。今後はいずこかの山岳会に入会し、更なる登山技術を学び、年代に合ったザイルパートナーが見つかるはずです。勿論私達が行くときに日程の調整が出来ればいつでもご一緒しましょ!。Kazuくん希望の山は不帰の嶮の山行中に唐松岳から見た「剱岳」だそうです。更にトレーニングを積み希望が叶うことを祈っています。  
翌朝、昨日のヘリや救急車の出動が気になり芦屋消防署に問い合わせました。
最初は個人情報云々と口が重かったのですが
「我々は中高年の登山グループの代表をしていて山岳事故予防のために教訓にしたい」 と説明すると
 車体の下に枝がひかかったよ  まあ何事もなく無事に終わって良かったね
丁寧に事故の状況を話て下さいました。 
『3月10日、午前10時30分救助要請を受け、救助に向かいました。負傷者は62歳の女性で3人で地獄谷を登山中に転倒し右肩を骨折。地獄谷と言う場所柄、ヘリコプターの要請をしましたが強風でピックアップ困難のためヘリコプターでの救出は断念し、人力にて救助しました。救助の管轄は芦屋隊ではなく神戸隊のため負傷者は神戸隊によって病院に搬送されました。事故の場所は地獄谷入り口の水位警報電線をくぐり、一つ目の滝(ホワイトフェイス分岐)を超えて次の滝での事故。』

電波状態の悪い地獄谷でどのように救助の連絡が出来たのかを質問すると、同伴者が電波状態の良い場所を探しながら移動したそうです。登山靴は履いていましたかと質問をすると履いていたとのこと。同伴者が地獄谷の地理にも詳しく救助場所へもスムーズに出掛けられたとも言っていました。
 美智子姫:記00