Yamatabi-CLUB000
近畿圏の名ルート、憧れの比良山系 「堂満ルンゼ 初めての本格的 雪山登攀」
 
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「何を今更初めてなどと!」と思われるかも知れませんが、私の技術、体力では今まで一度も冬山のお誘いはありませんでした。武奈ケ岳や赤坂山などスノーシューでの雪山ハイクには何度も行きましたが、今回の様にラッセルや雪壁登りなどが登場してくる雪山登攀は初めての体験でした。

「交通安全コンクールが好成績で終わったら連れてったる!」
その言葉に、ピッケルを研ぎ、12本爪のアイゼンをレバーロックのものに変えて登攀に備えます。ホワイトフェースやキャッスルウオールをアイゼンで登攀してトレーニングを積み、スキルアップをはかる予定でしたが、予定した3日間はあいにくの雨、雨、雨に遭い、ぶっつけ本番となりました。
かつてホワイトフェースやキャッスルウオールをアイゼンで登ったこともありますが、あれからもう2年以上経っていてちょっと不安。

前夜は近江舞子の民宿に泊まり、早朝にイン谷口から入山。8時頃から堂満ルンゼに登攀予定とのことで、期待も大きかったけれど不安も大きく、雪崩に遭ったら…?、途中でギブアップしたら…?、などと心配も大きかったです。しかし同行のメンバーの皆様が山岳会のベテラン揃いと言うことで安心し、前夜におでんとおにぎりと焼酎の差し入れでゴマをすり 「明日はよろしく!」 とお願いすることにしました。
前日民宿に泊まって 夕食は持参のおにぎりと おでんたっぷり ほどほどに飲んだよ
午後3時に民宿に到着。部屋にコンロを持ち込み、鍋を出し、おでんを温め、お湯割り水割り何でもござれで山談義がはじまりました。時計をみるとまだ午後7時頃です。露天風呂に入り、まだ寝るには早いと、またまた山談義の続きが始まり、メンバー内で最若年者のジャムジャム君だけが早くから眠りについていましたが、後の4人は気が付けば12時が過ぎるまで愉快に話の花を咲かせていました。途中でトイレに起きたジャムジャム君は目が覚め、話しの仲間に入って来られた時は「そろそろ寝ようか」とみんなフトンに入る頃、「ヒツジが一匹〜」もう二匹目を数える頃はゴーゴーと深い眠りにつき、ジャムジャム君だけが眠るタイミングを逃し、いびきに悩まされ、悶々として眠れなかったと、朝、不満をぶちまけていました。
(ゴメンね)

13日。日曜日午前3時30分。「いま何時?」と師匠の声。それから15分間隔に時間を尋ねて来ました。もう起きるしかないと布団を飛び出し外を見ると辺り一面真っ白です。JONと姫が朝食を終える頃、精鋭達が布団を抜け出してきます。全員朝食を済ませ、ハーネス装着の完全装備の後、午前6時30分民宿を出発です。
イン谷口出発 前日下見に来たときは路面には全く積雪は無かったのに、今朝は20cmくらい積もっていました。
二本の轍を残しながら駐車予定地であるイン谷口へ向かいます。イン谷口を北に取ればイン谷で、今は撤去された比良ロープウエイ乗り場の有ったところ。西に向かえば正面谷。かつては路線バスも走っており、出合山荘もあって比良登山の要衝になっていたところだが、今は山荘も消え静寂を取り戻しつつあった。

ここから約1時間新雪を蹴立てて前進していきます。私は最後尾を歩き、みんなの付けた足跡に足を置くのですが微妙に大股…歩きにくい。
正面谷に向かう登山道はトレースがありません。男性陣が交代で前を歩きます。
あたり一面銀世界、わくわくドキドキしながらアイゼン片手に雪を掻き分けサックサック。
大山口で北比良峠へのダケ道を分けて金糞峠方面へと進みます。雪はだんだん深くなってきます。
大山口出合、ここは北比良峠へ上がるダケ道との分岐。この辺りより雪が深くなってくる。先頭を歩く人はラッセルを余儀なくされます。みんなで交代をしながらトレースをつけていくのですが、私は免除のようです。いくつかの堰堤を右に見ながら進んでいき、急傾斜を這う様にして登りきると大きな堰堤に直面しました。標高620m、ここが堂満第1ルンゼの取り付きだそうです。
ここから標高差437m、水平距離約600m、沿面距離約750m、平均斜度35度を一気に登ります。
ここでアイゼンを装着、私はロープをつけて師匠とアンザイレンです。滑落すると真っ逆さまで多分助からないだろうと笑って言われましたが、私には笑う余裕がありませんでした。登攀の用意をしていると金糞峠へ向かう登山者が私達に 「ラッセルありがとうございました」 と声をかけてくれました。
私達のつけたトレースにお礼を言ってくれたのです。「ああ、まだほんまもんの山男もいるんや」とちょっとうれしくなりました。
リーダーのかんさん いまちゃん ジャムジャム君
JON
堰堤を越えルンゼに入っていくのですが「姫!さあ登って!」と師匠の声。えっ〜私が一番かよ〜と不安ながら堰堤にとりつきました。アイゼンの前爪が上手く使えないとズルズルと身体が落ちてしまいます。ピッケルを思い切り打ち付けても、堰堤のコンクリートに張り付いた氷はそう容易く受け入れてはくれません。まるでアイゼン登攀の試験を受けているような気分でしたが何とか登り切りました。後で聞くとアイゼン登攀の試験だったそうです。
「あそこを登れないようではあとが大変、引き返させるつもりやった」と師匠に言われました。
「えーっ。一人で」
「心配すな。雪山を一人で下山させたりせえへん。ワシも降りるつもりやった」 そう聞いてホッとしたような、登れて良かったような。

その後は垂直に近いルンゼを命がけで登攀開始です。

時々「上を見てっ!下も見てっ!」と言われ、上を見れば果てしなく続く谷間の景色。下を見れば、切り立っていて足がすくみます。切れ落ちて、ぞっとするような高度感。これで滑り落ちたら命はないなぁ。ひたすらに上を向いて雪面に足を蹴り込んで、滑り落ちそうになりながら前爪に頼り、必死で何とか這い上がりました。

「此処からは前を歩いて」そう言われて前を歩くと
「後ろを歩いている同伴者から『落ちた』とか『止めて』とか『あー』とか言う声が聞こえたら、ピッケルを思いっきり差し込んで両手両足で踏ん張って体制を低くしろ」

その体制を私にとらせると実際に滑落してテンションをかけ、その負荷を体験させてくれます。
「今は滑りながら俺がロープ操作をしているが、リードがロープ操作もすることになる。一気にロープをロックすると自分の負担が増える。また一度にロープを出すと張り切ったときに自分の体が後ろに持っていかれる。ゆっくりロープを出すように、握力をかけて掌の中をロープを滑らせるンや。そうするとロープが張り切ったときに自分への負担が軽減される」と手を取るように教えてくれます。
「この状況下ではピッケルは横に寝かせて雪面を捉えろ」
「こんなところでは這ってはいかん。体軸を保て。登れば良いってもんじゃあない。滅多に来る事が出来ないんだから勉強しながら進め」
厳しいながら尤もな言葉が飛んできます。
急斜面なると前後入れ替わって、前を歩きながら見本を見せてくれる。なるほど短い間隔でステップを切りなおしながら登っていく、その後に続くとなんと歩きやすいことこのうえなし。これなら疲れないなあと感じながら登っていく。
先を歩く山岳会の人達の体力はそりゃう怪人の様で、前を行きながらも30分毎ぐらいに急斜面で待っていてくれました。時々、丸く転がっていく雪の固まりが「表層雪崩の兆候か?!」などと想像をしながら少し景色を眺めるゆとりも出てきました。 「この傾斜では前爪をもっと使って!少し踵を上げ気味に蹴り込め、そんな歩き方だと疲れて頂上まで行き着かんよ!」 ザイルパートナーの師匠からの厳しいアドバイスも、頭ではわかってはいるのですが練習不足と言うか経験不足と言うか、滑ると怖いと言う恐怖心の方が先にたち、うまく登れませんでした。

降雪がやみ、辺りが明るくなったころ、リーダーのかんさんが 「あれ、もうルンゼを抜けた見たいやなあ」 と話してくれる。
「今日のルンゼは全然厳しさが無かったなあ。ルンゼは何時もこんなもんだとは思わんといてね。今日は10回近く登った中で一番簡単だから」
これで?、これより厳しかったら私はどうなるの。私でも登れるの?。昨夜冗談交じりで言っていた
 「男4人いたら姫一人ぐらい宙吊りに出来るな」
 という言葉を思い出し、あれはまんざら冗談ではなかったように感じた次第です。

トレースのない新雪に埋もれた急峻なルンゼを先にたって行く人達は強靱な体力で息を乱すことなく平気で登っていきます。やがて私もリズムを取り返し、みんなから少し遅れるものの同じ歩調で、山頂直下の雪の付いた樹林帯の急登を頑張って登りきると頂上が待っていてくれました。
ルンゼ上部に出ると大山尾根の向こうに釈迦岳がくっきり。
11時30分堂満岳の頂上に到着。

「どや!これが堂満ルンゼや!ここに登れたら一人前や!」
誰と無く声をかけてくれます。

そんな励ましの声を聞きながら、何とか堂満岳頂上(1057m)に到着しました。ついに登れた。

頂上ではリーダーのかんさんが、「北西方向に延びるのが東レ新道。その向こうの低いところが金糞峠。そこから上に向かって延びているのが石楠花尾根。その上が北比良峠」と説明してくれます。
以前、夏に来たときより標高は、積雪分だけ2メートル以上は違うでしょうか。いつもは樹木の陰で見えないのに、今日はよく見渡せます。
やっぱり今日の積雪は多いんや。
雪は相変わらず深々と降り続いています。
頂上でしばし休憩。民宿で作った暖かい紅茶をみんなで飲み、無事に登攀できたことへの喜びと感謝を身体と言葉で表しました。
老いも、オイも、おいも、みんなそろって頂上直下をシリセード、写真では急傾斜が表現できていないのが残念です
下山は、皆そろってシリセード。頂上直下100mくらいを一気に滑り降ります、滑り降りたというよりは落ちたという感じです。雪の深みにはまり、もがき苦しんだり、深雪から抜け出せなくて人の手を借りたり、年を忘れて楽しみます。

途中の休憩で何度かリュックの中を開け、レーションを出していると、2〜3分の間に脱いだ手袋が白くなって凍っていました。

まだ雪は降り続いています。
頂上直下はアッと言うまに滑り落ちたという感じです。
途中で堂満岳に登る多くの登山者とも会いましたが、頂上まで行けるのかと不安になるほどの遅い時間でした。私達も電車で来れば、この方達と同じことになり、到底堂満ルンゼは無理だと言うことがわかりました。
全員そろって休憩。さあ出発となると1分もしないうちにメンバーの姿が見えなくなります。
「私が遅いから申し訳ないなあ」そういうと
「大丈夫。予定では山頂を13時の予定だから、遅れてはいない、時間はあるから充分楽しみながら降りればいい」 とパートナーの声。

ノタノホリの池のそばで記念写真を撮ってやるからと言うことで池を背にしてさがっていると、突然ズボッ。雪に隠れた池の中にスッポリとはまり、あわてて尻餅を付き、両足をあけで水没セーフ!。 「どこに行っても、一芸やるやっちゃなあ」 とは師匠の弁
もう歩くの…ヤダー ノタノホリで ニホンジカに見送られて
ここから急激に高度を下げていくと別荘地にでます。建屋の軒先で雪見酒を洒落込んでいる三人の人達に挨拶をして通り抜け、別荘地の中ほどから左に折れて進んでいくと、古崎川に架かる木橋の畔で、いきなりガサガサーっと物音がして一頭の日本鹿が目前を駆け上がって行き、小高いところからこちらを見ていました。カメラを出して撮影する間も、ずーっとこちらを向いていてくれました。
まるで「無事に下山してきて良かったね」とでも言ってくれているように見受けました。

ああーっ。シカにシカトされなくて良かった。

ハードなコースではありましたが登り切れたと言う満足感や自然との出合いもあり、嬉しさいっぱいです。
午後1時30分には駐車していた出発点まで無事、戻ることができて、とても楽しい山行となりました。

今回は初めての本格的雪山登攀で、体力・技術的にもまだまだ力不足だと痛感しましたが、同行を許可して下さった山岳会の皆様に感謝の言葉を心より申し上げます。ありがとうございました。

渋滞にも遭わず、怪我もなく無事に帰宅することができました。

   メンバーの感想
00リーダー・かんさん 今日のルンゼは雪が多すぎてルンゼの良さも危険度も味わうことが出来ませんでした。これがルンゼの全てだと思わないでください。皆さん無事に抜けられて良かったです。今後の糧にしていただけたら幸いです。
00いまちゃん 来たかってん。ルンゼは一度来たかってん。リーダーに無理を言ったけど、メンバーに入れてもらえて本当に良かったです。雪山の技術向上に二度も三度も来たいです。
00ジャムジャム君 雪山初級のトレーニングには最高のところですね。以前は教室で使っていたようですが私が入会してからは一度もありませんでした。来年は教室に使うかどうか、さらに検討してみたいです。
00ジョンさん 三年ぶりのルンゼです。ここ2シーズンは病気のため雪山登攀から距離をおいていましたが、やっと戻ってこられたという感じです。 『厳しくなければ山じゃない。危険でなければ山じゃない』 もう少しの間、持論を唱えられそうです。
文:美智子姫00000 写真:ジャムジャム君&JON