安全登山楽講 
日本一危険な生物スズメバチ 初夏から初秋の低山ハイキングがとくに危険
 【 オオスズメバチに刺されたときの状況 】
オオスズメバチの大きさは3〜4cm。日本全国の平地から低山の雑木林や人家周辺などに生息し、主に土中に営巣しますが、まれに樹洞なとにも営巣するハチです。
4年ほど前になりますが私がクライミング中にオオスズメバチに刺された時の様子をお話します。
六甲山系の地獄谷を遡り、A懸垂岩の左壁を登った時でした。岩棚に着いてフォローのビレイの準備をしているとき、数匹のオオスズメバチが舞い始めたのです。目視しただけでオオスズメバチだと判断できました。岩に巻こうとしたシュリンゲが当たったのかも知れません。岩陰に乱舞するものは見えなかったですが下からすざましい声で「すごい数のハチが飛んでるぞー」「5〜6匹は見えるけど」「そんなもんと違うでー早く降りんと」そんな会話をしているうちにハチが肩や腕に体当たりをしてきたのです。岩棚の上のため走って逃げるようなわけには行きません。数本のシュリンゲを振り回して応戦しました。何匹かのハチに当たったように感じました。一瞬ハチがいなくなったので「助かった」と思いながらメインロープを解き岩棚の裏側をクライムダウンし始めたときでした。長袖のカフスの間から左腕の内側を刺されたのです。痛いというより熱いという感じでした。思わず「刺された」と口走りながら必死で下降しました。
 
オオスズメバチ
 【 症  状 】
刺されたときは、チクッとしたあとキリキリキリと針が皮膚の奥深く入ってくる感じがし、直ぐに冷や汗が出てくるようでした。クライムダウン中だったため傷口も蜂の姿も確認できず必死で下降するばかりでした。時間にして2〜3分ぐらいだったでしょうか。下りたときには左手が痺れ、直径5センチぐらい赤くなっていました。痛さよりも大きなハチに刺されたという精神的ダメージのほうが大きかったように思います。
 【 処  置 】
袖を捲くりあげ同行者と二人で必死で搾りましたが毒が出た気配がありません。ポケットからナイフを出し切開しようとしますが、なかなか切れるものではありません。どうにか長さ1cm深さ5mmほど切開することが出来ましたので思いっきり搾り出しました。ポタポタポタと流れ落ちる血を見て、切り過ぎたかなと思いましたが、搾り続けているうちに痺れがスーと消えていったのです。「毒が出たみたい。少し楽になった。もう少し搾って」同行者にお願いしてさらにに搾り続けました。そのうち刺された痛みより皮膚を摘んだ痛みのほうを感じるようになってきましたので、傷口を清水で洗い、消毒液を充分傷口に流してから大判の傷テープで抑えました。
 【 その後 】
傷口が少し気になりましたが、岩登りをやめ予定コースを歩いて帰りました。
翌日腫れも痛みも全く無かったので医療機関に行くこともせず放置しました。ただ搾るときに力を入れすぎたのか一週間ぐらい鬱血したあとがヒトデのような形で残っていました。
 【 現在山行中に気をつけていること 】
吸出し用の器具、エピペン、清水、消毒液はいつも携行しています。
 【 切開するときの注意 】
後日医師に聞いたのですが、「素人が切開などするものでは無い」と言いながらも切開のためのヒントを教えてくださいました。
「刃を皮膚に向けて切ろうとしても切れるものではない。患部に刃を上に向けてあて、思う深さまで入れてからはねあげるようにして切れば切りすぎることも無く必要分切開できる」そう教えてくださいました。
■切開する場合は自分の責任において自分の皮膚だけを切ってくださ  い。決して他人の 皮膚を切開したりしないように。
■切開後、口で吸い出すこともよくありません。虫歯などから細菌が進  入す る場合がありますのでご注意ください。
■吸引器で吸い出すときは切開しないで下図のように吸引を行ってく   ださい。
   
  刃は皮膚のほうに向けないで  背を下に、刃先を引っ掛けるように 
 【 ハチ毒の吸引の仕方 】
       
 シャフトを引き出す  患部に先を密着させる  シャフトを押し込む  皮膚が膨れ上がります

 日本で最も危険な生物から身を守るために。
日本で危険な生物というとクマやマムシを思い浮かべますが、それらによって死に至る事故は少ないようです。しかしスズメバチに刺されて亡くなる人は、年間3〜40人はあるようです。日本の山野に生息するきわめて危険な生物はスズメバチであると言っても過言ではありません。多発する死亡事故から身を守るために気をつけようではありませんか。
日本の野山に棲息しているスズメバチは全部で7種類おり、それぞれ細かい生態や分布の違いはあるものの、似たような棲息状態のようである。ご存知のように女王バチを中心に、多くのメスの働きバチと少数の雄バチで形成されている。
エサは昆虫類や樹液などで、人家周辺から低山の雑木林などに巣を作っている。高山帯などには基本的には棲息していないので、登山者にとって危険な山域は、低山から山麓にかけてということになる。季節的には初夏から初秋が要注意。また、ゴミ捨て場や自動販売機周辺で、空き缶に残ったジュースを吸いにくることがあるの自然帯以外にも注意が必要です。事故報告によるとキイロスズメバチのように棲息場所を都市に広げている種類もあり、都市部でもハチによる死亡事故が増えている。
スズメバチに刺されて死ぬのは、「アナフィラキシー・ショック」というアレルギー反応によるもので、アレルギーなので、過去にハチに刺されたことのある人のほうが症状が重いことが多いが、反応は人それぞれのようです。
病院の皮膚科でハチの毒に対する自分の体質を調べることができるので検査してもらうのもよい。
また、アレルギーとは別に、ハチの毒が大量に目に入ると失明することもあるようです。
ハチにつきまとわれたらゆっくりとその場から離れる。
スズメバチが人を刺すのは、「巣の防衛」のためです。スズメバチに刺される被害が発生するのは7月から10月が一番多いようです。
この時期は、スズメバチが巣を拡大中で、多くの働きバチ(メス)が巣の防衛行動にあたっています。
たとえばキイロスズメバチでは、働きバチの数が最盛期には700匹から1000匹近くにもなり、巣から5m〜10mが「防衛エリア」と言われています。そして、そこに侵入する人間などを攻撃するのです。
攻撃にいたるまでのプロセスと対処法は。
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偵察バチによる警戒=防衛エリアに侵入すると、1〜3匹くらいの偵察バチが、侵入者の周囲を飛びまわって警戒する。
偵察バチによる威囁=さらに侵入者が巣に近づくと、、アゴをカチカチならして威嚇する。
対処法=
絶対にハチを刺激しない。この段階で手でハチを払いのけたり、あわてて走って逃げたりすると、そのハチから警報フエロモンが発散され、興奮したハチが集まり、重大な事態が発生ことになる。ゆっくり後退しながら、その場から離れる。遠ざかればハチは追ってこなくなる。
攻撃=この段階で、威嚇を無視したり、巣を振動させるなどの刺激を与えると、集団で侵入者を襲うことになる。
対処=走って逃げる。その場でじっとしていても刺されるだけ。数十メートルにわたって侵入者を追いかけることが多いので、とにかく逃げる。
人間を襲うときは頭部や眼球など、黒い部分を重点的に狙う傾向がみられる。そのため、黒っぼい服は避けたほうがよい。
これは最大の天敵であるクマや人間に村する防衝行動だと考えられている。また、整髪料の匂いに寄ってくるともいわれている
 毒を絞り出し、抗ヒスタミン系軟膏を塗る
  刺されてしまったときの応急手当は、まず、清水で患部を洗い流しながら、毒を血液といっしょに絞り出す。専用の毒吸い器(写真参憬)を使うのもよい。これだけで治りも早くなる。その後、患部に、虫さされのかゆみ止めとして市販されている抗ヒスタミン剤を含んだステロイド軟膏を塗る。昔は尿のアンモニアで中和するといわれていたが、これはまったくのまちがい。また、患部を冷湿布などで冷やすのも有効。
ただし、5分から20分ぐらいで、顔面が蒼白になり、血圧が低下し、全身にふるえがきて立ってはいられなくなるようなショック症状が現われたら、一刻も早く病院で手当を受けること。このときエピペンを持っていたら注射するのが有効。

 コガタスズメバチ  モンスズメバチ  チャイロスズメバチ   キイロスズメパチ
       
大きさは2〜3cm。九州の平地から低山の雑木林や人家周辺などで生息している。近年、都市部で増えている。葉の生い繁った木の枝に、一輪挿しの花瓶を逆さまにしたような巣を作る。写真は女王バチ。  大きさは2〜3cm。日本全国の雑木林ど比較的自然の豊かなところで生息している。樹洞などの閉鎖された空間に巣を作っている。  2〜2.5cm。日本各地の雑木木林などに生息し、モンスズメバチやキイロスズメバチの巣を襲って乗っ取る。   2〜2.5cm。日本全国の平地から低山の雑木林や人家周辺なで生息しているが近年、都市部で増えている。樹木や崖、家の軒下、屋根裏などで、大きな球状の巣を作る。
 日本には上記以外にヒメスズメバチとツマグロスズメバチがいるようです。

毒吸引器:    エピペン 
   
ハチの毒針が残っていたら直ちに爪等で取り除いてください。皮膚に残った毒針を強く押したり、つまんだりしないでください。
その後、ハチ毒吸引器でハチ毒を吸い出してから、患部を冷やします。手足を刺された場合は心臓に近いところを縛るなどの処置もあわせて行います。腫れた患部に抗ヒスタミン薬などの薬を塗り、医師から指示されている場合には内服用の抗ヒスタミン薬を服用します。
  アナフィラキシーショックを発現する危険性の高い人に限って使用できる携帯用注射が発売されました。誰でも処方してもらえるわけではなく、医療機関で使い方の指導などの教育を受け医師の判断のもとに同意を得て処方してもらう注射器です。
使用法は、蜂にさされアナフィラキシ−症状などがでたと思ったら(衣服の上からも可)
太ももの前外側に注射します。1回限りの使い捨てです。
あくまでもアナフィラキシーに伴う症状を軽減させる効果だけなので使用後は、必ず医療機関にかかってください。