2016
ちょっと専門的なロープワークです

桃の節句も済み、梅の花も咲き誇り、モクレンの花が蕾を広げ、あとは桜の開花を待つ季節となりました。山の頂きからは雪も溶けはじめ名実ともに春を迎えようとしています。

しかしまたここに来て、冬の寒さが戻ってきた様な冷たい土曜日の朝を迎えました。寒さ対策をしっかり取り、芦屋・地獄谷へ出かけることにしました。今回は異色なメンバーで専門的なロープワークの講習会をすることになりました。「高層マンションのT橋さん」と「TeamJJのJ1さん」を中心に日頃、疑問に思っているロープ操作について質疑応答の形で勉強会をしました。受講生のお2人は基本的なことはすべてマスターされていますので師匠の裏技披露も続々と出番があり「ヘェーッ!」「そうだったのか~!」の連発でした。二人とも常にリーダーで山行をされており、パートナーの安全を確保するためにさらなる技術向上を目指しているのがよくわかります。

12日の土曜日は芦屋・ロックガーデンコースは大混雑で、ひょっとしたら芦屋から有馬までアリの行列の様に続いているのではと思うほどの人出でした。

学校が休みとあって、家族連れや子供会も多く見受けられました。ウオーキングの会の幟旗もはためいていました。いつも平地歩きを得意とするウオーカー達も、いきなりのロックガーデンの岩場歩きに苦戦し、更なる渋滞を作っている様子でした。中央稜を選択していたら、大変な目に遭って前に進めなかったことでしょう。地獄谷も春山を目指すアイゼントレーニングの人達が多かったです。
地獄谷入口の岩が新たに崩れ落ちているのが発見されました。充分注意しないと剥がれた岩を持ち、岩と共に転落の危険性があります。しかし地獄谷の危険性を知らない人達も多く、中には短パン履いてリュックも担がず空身で地獄谷に入って行った若い3人組の女の子もいました。(講習中のおじさん達・・手を止めてチラチラ見てたなぁ~)。「中級コースってこれっすか?」耳にピアスをぶら下げた若い男子3人がやってきて登山道はどこかと聞きます。「どこまで行くの?」と聞くと「有馬っス!」と答えました。「とりあえず小便の滝までは迷わず行けるけどあとは知らないよ!」と突き放しました。地図も持たず中級コースのレベルではない若者が、体力のみで有馬まで迷わずに行けるとは思えません。危険すぎます。無謀です。どの本に中級って書いてるのでしょうか?次にやって来たおじさんは「岩場はどこですか?」聞けば昔クライミングをしたことがあり、その時の岩場を探しているとの事でした。岩場の名前を聞きましたがハッキリしないため、とりあえず目の前にある崩壊したゲートロックを指差しておきました。地獄谷行きの利用者がやっと一段落したので入口の広場にシートを広げ、いよいよ講習会スタートです。
ロープについて 
ロープの仕組みです
一番細い毛のような部分がファイバー。ファイバーを束ねたものがヤーン、さらに束ねて三ッ打ちにしたものがスランドといい内芯です。それを外皮で保護してロープとなります。
このロープは9mmのスタティックでスランドは11本入っていました。
スランド1本の強度を体感しました。
一本のスランドに二人がぶら下がりその強度を確認しました。静荷重では大丈夫でしたが、体重をかけてしゃくると切れました。
ロープの強度テスト ノーノットアンカー
スランドの太さと数はメーカーによって異なりますので、すべて同じ結果とはいきません。   ①は5回ほど幹に巻きつけます
 ②はロープのたるみをとります。オーバーハンドノットでもOK
 ③は末端を8ノットに結びメインにかけておきます。
T橋さんのソロクライミングの登攀システムです 
これはT橋さんのソロクライミングの登攀システムです。岩場上部への登下降路を利用して最上部へ行き、ロープの中央部をラビットノットで結び、2点に固定分散して垂らします。その後懸垂下降で岩場の基部へ下降。ロープの末端をコイル状にしてウェイトにし、ロープが上に引き上げられるのを防ぎます。ハーネスに2個のアッセンションを装着し、その上部を『クロール』取付用ショルダーストラップ(赤)で安定させます。2本のロープをそれぞれのアッセンションに通し、セット完了です。
2点の安全を確保していますので、安心してトレーニングできます。
 プルージックのあれこれ
プルージックの結び方 2ラウンド、3ラウンド、ブリッジプルージックなどの練習
3on2、2on3の各プルージック プルージックスライディングシステム
プルージックに全体重をかけます  ロープを逆に引いて解除します。この時プルージックによって、逆に引く力が変わります 
8ノットはきちんと結べてますか
インライン8ノットを使ってロープを展張してみました。
①に作ったインライン8ノットのループにカラビナをかける。
③のカラビナで折り返したロープを②で再度折り返して幹の方向に引っ張ります。このやり方だと3倍力で展張できます。関係する間の距離を考えて展張すればピンピンに張ることができます。
ロープ登降について 
ロープ登高の練習を試みましたが…ちょっと失敗…次回はストップを持参してリベンジだい
 ロープの携行の仕方
ロープはタスキ掛けに束ねてかけます パートナーには8ノットでカラビナ掛け スリップノットで持ちます
講習に熱中しているとお腹の虫が正午を告げました。気が付けば12時を過ぎています。日当たりの良い場所を探して昼食タイムです。昼食を済ませると寒さが一層身に沁みます。風邪を引かぬように防寒対策をしっかり整え午後の講習開始です。 
連続こぶの作り方 タンデムプルージックによるロープの展張
J1さん秘伝の「夜逃げ結び」です 20数キロのザックを流してビレイの練習
傾斜角40度くらいにロープを展張し滑車を使って20数キロのザックを滑らします。それを9mmのロープで止める練習です
雪山をアンザイレンで通行中に相棒が足を滑らせたら停止できるかどうかを実際の傾斜を利用してリュックを人間に見立てて、滑落停止時に、身体に感じる衝撃テストから始めました。加速して滑り落ちる一人の人間を停止さすのは並大抵の事ではありません。しかしロープ操作の原理さえ知っていればビレイヤーへの衝撃を少なくして確実に助けることができるのです。
T橋さんって、お・ちゃ・め…JONは、お・ち・め
「リュックが軽すぎるなぁ」と言われましたので装置替えの合間を利用して内緒でリュックの中に石の塊を入れました。
「うっ重たっ!」しめ、しめ・・作戦成功です。ほぼ人間半分くらいの体重に近づいた様です。
これほどに熱心に取り組みをしているリーダー達と一緒に山行が出来るパートナーは幸せ者だと思います。滑落救助方法をみっちりと5時間も訓練しました。ロープ操作は奥が深く、勉強してマスターすればこんなに面白い道具はありません。
(面白いって言っちゃあいかんかなぁ)
片方だけが知識を得ても現場で使う時は相棒も同時に「いま何をしようとしているのか」を知っておけば、互いの安全登山間違いなしです。
講習会終了後はゲレンデまで行きクライミングもする予定でしたが講義に熱中しすぎて気づけば午後2時、下山時間となっていました。帰り支度を済ませ阪急電車で梅田に立ち寄り「バッテラの店」で反省会をしました。次の再会は「佐土新のゲレンデで!」を合言葉にお別れしました。
高層マンションT橋さんの感想

コンテのロープワークなど、ネットや書籍には詳細情報がほとんど無くて困っていましたが、手取り足取り教えていただいたおかげで、数々の謎が解けました。
また、漠然と使っていたエイトノットが実は「ばったもん」だったとこも判明。大収穫の一日になりました。

JON様、姫様、J1様に大感謝!


 teamJJ-J1さんの感想

先日はお世話になりました。
T橋さんにとっては余計な素人が同行で少しご迷惑だっかもしれませんが…。

教えていただいたこと全て理解したわけではないですが復習してこれからの山行に活かしていきたいと思っています。
寒い中、
JONさんや姫さんには一日お付き合いして頂き感謝しております。


 JONの感想
皆さんご理解が早いので一日がとても楽しく過ごせました。危険なことも披露しましたが使わないのが賢明です。ただ覚えていて役に立つかも知れません。だとしたらそれは究極の局面でしょう。
知識を入れるのは簡単なことですが、それはトレーニングをして技術で裏付けをしていかないと生兵法になりかねません。
また教わったことは一つの方法でしかありませんので、ご自身がやりやすいようにアレンジしていただくことも大切です。
J1さんもT橋さんも優秀なクライマーですので、さらなる高みを目指して頑張ってください。今後を楽しみにしています。
いつでもお付き合いしますので、私の脳の老化を防いでください。
インライン8の結び方では「あせりましたよ」

 ひめの感想
師匠とアンザイレンで山行を共にする時、私が使うことは無いであろう(使えない)専門的な講習でしたが傍で見学するだけでも値打ちがありました。「ああ今、相棒はこんな操作をしているのだ」と山中で理解できたら、たとえカラビナを取ったり、ロープのネジレをほどいたりの補助的作業は、出来るのではないかと思います。山は「連れて行ってもらっている」と言う甘い考えは捨てて、習ったことは忘れないようにしたいと思います。ロープワークは日々の練習の積み重ねだと教わりました。短いロープでテレビをみながら「美しいエイトノット」や「美しいプルージック」の練習を重ねます。「ロープの結び目が美しいと言うことは正しい結び方に通ずる」とも教わりました。互いに真剣に取り組みながら、やや危険な岩場(だ~い好き)通過ができたらと思っています。受講生お2人が若くて力持ちで頼り甲斐があり逞しく感じました。
文:美智子姫