安全なクライミングを目指して
日本フリークライミング協会では,クライミングについて次のように考えております。  
クライミングは危険を伴うスポーツです。例え原則やルールを守っていても、時として最悪の結果を招くことがあります。行動の結果が予測できない人や、予測できても白分には受け入れられないと考える人は、クライミングをすべきではありません。同様に、完全な安全を求める人も、クライミングをすべきではありません。
ロープは正しく結んであるか、プロテクションは適切にとれているか、あるいは、もしホールドが欠けたら何が起こるのか、ここで落ちると何か起こるのか、など自分白身による確認と予測をすることが重要です。
危険認識または予測能力が欠けているクライマーは、その能力のある人に比べて、より重大な損害を被る傾向と、事故後に他のクライマー(ビレイヤー)または関係者とより深刻なトラブルを巻き起こす傾向があります。アクシデントによって起こりうる事態を、自分が受け入れるかどうかの判断も常に必要とされます。事故例を見れば明らかですが、クライミングに完全な安全はありません。大変厳しい言葉ですが、クライミングぱその危険を了承したものだけがおこなえる”スポーツです。
 《岩場は危険》
 発表されているエリアでも、未発表のエリアでも、岩場の安全性は誰にも保証されていません。岩には常に、欠損、崩落、崩壊などの危険があります。また、自然環境の中では、時に落雷、突風、高波、地震、津波、害虫、毒ヘビなどの危険もあります。
岩場で休憩中に落石を受け死亡、岩場で子供の頭に落石が直撃などの事例があります。また登っている最中でもホールドやフットホールドが欠けてフォールし、重大な被害となる場合があります。
 《道具に関する知識》
すべてのクライマーは自分の使う道具に対する正しい使用法や知識を学ぶ義務を負っています。その知識の欠如は自分と関係者を危険な状況にさらします。
特にビレイデバイスの特徴や使用法、ナチュラルプロテクションのセット不良などはクライマーに重大な被害を与えるケースとなりえます。説明書には使用方法、メンテナンス、製品の性質等について重要な説明がありますので、必ず目を通して、正しい用具の知識と使い方を学習しなければなりません。 
   
 《ボルトなどの残置支点》
岩場に設置されているボルトや終了点、その他の残置支点の、その時点での強度や信頼性については誰も保証していません。使用可否の判断はすべて、それを使用しようとする1人1人のクライマーがおこなうものです。
日本フリークライミング協会では、ボルト打ち替え事業などをおこなっていますが、これらは、クライマー自身が安全確保をする際のサポートをするものです。また、協会によるボルト打ち変え事業では、高い強度を持つ製品を使用し、製造者によって指定された方法にできるだけ従って施工されていますが、100%の安全を保証するものではありません。
ボルトが抜けた、折れた、といった支点や終了点の崩壊事例は、件数は少ないのですが発生しています。残置する人、使う人の双方が気をつけ、すべての残置支点は必ず使用前にチェックすることが最重要です。
 《ルートの選択》 
安全マージンを考えて、取り付くべきだと考えます。実力のある者にとっては何の問題もないルートや課題でも、実力の低いものにとっでは危険なことが多々あります。また低グレードのルートは、よりレベルの高いクライマーによってボルトなどが設置されている場合が少なくありません。
 1本目および2本目など、ルート下部のクリップができないことは、致命的な事故につながる可能性があります。
グレードだけでなく、自分の日でそのルートは安全に取り付けるかを確認をすべきです。また、ナチュラノレプロテクションを使用する場合は、その知識と技術も必須です。
白身の能力とリスクを常に天秤にかけ、より安全なスタイノレを選択することが最重要です。また自分の能力以上のクライミングは、時に際どい賭けになることも忘れてはいけません。
落石やロングフォールの可能性のある岩場では、ヘルメットを使用することも重要です。
ルートの難度を指標するグレードは、同じシステムを使っていても、実際には個人差、地域差、ルートの性質、ジム毎の差があり、大きくずれているケースもあるので数字だけに惑わされていてはいけません。
 《登っている人が優先》 
先に上っている人、今登っている人に優先権があります。ルートでも、ボルダーでも、ジムでも、岩場でもビレイやスポットであっても、下にいる人は今登っているクライマーに注意をするべきです。登っている人に 登っている人に、下への注意を求めることは現実的ではありません。例えクライマーが落ちたり、何かを落として下にいる自分に激突しても、クライマーにその責任を求めることはできません(登っている人が何をしてもいいという訳ではありません)。
クライマーは通常、登ることで手一杯ですので、登っていない人がより多くの注意を払うべきです。また、ドの安全確保のためにそれを一つ一つ確認することは、本来のクライマーの役目ではありません(もちろん下に危険を通知することができれば、するべきです)
下にいる人は、落石や落下物を予測して自分の居場所や行動を決めるべきです。また、ジムなどでは、ボルダー、リード(グランドフォールやロングフォール)ともにクライマーの落下線上に入らないように気をつける必要があります。また、初心者や子どもはヘルメットの着用を強く推奨します。
 《ビレイヤーヘ》
ビレイミスは重大な事故へつながるため、ギア、ポジションなど最善を尽くすべきです。近年では「スポーツノレート用」を謳うビレイデバイスも見受けられます。この場合、UIAA (国際山岳連盟)の基準では支点強度が25KN以上を保証されているノレートでの使用を前提としています。実際には、これに当てはまらないルートが多く存在すると考えられます。
クラックや、支点強度が25KN以下のルートに取り付く際には、適切なビレイデバイスの選択が必要です。またビレイデバイスの種類によりフォール時の最終支点への衝撃が大きく異なると言う報告もあります。
状況によっては、ベストなビレイを行っても事故が発生します。ビレイヤーのみならず、クライマーもそのことを受け入れる必要があります。
ルート下部でのクライマーのフォールは、ロープをロックしても流しても、事故につながる場合があります。
ビレイは信頼できる相手にしてもらうものであり、基本的にルートはパートナーと行くものです。技量の分からない人、知らない人にビレイを頼むことは、時に重大な事故につながることがあります。
 《ポルダー》 
手軽に始めやすいことと、危険が少ないことはイコールではありません。着地の失敗による捻挫や骨折は数多く報告されています。マットの上に着地した場合でも同様の事故が発生しています。また、着地ミスのみならず、高い位置からの飛び降りによる脊椎の骨折や、腰部の損傷が多く報告されています。飛び降りることは最小限に控え、できる限り、安定した着地に備える必i:があります。  
 《スポッター》
 ボルダラーとの意思の疎通が不十分だと、自分が押しつぶされて、怪我をしたりするケースがあります。また、クラッシュパッドを不用意に移動したことが原因で人事故になったケースもあります。
 特に体重差のある場合や高さのある課題の場合は、スポッターの方がより危険になります。ビレイヤーの役目がクライマーの墜落を止めることであるのに対して、スポッターの役目はあくまでも、自分を守りながらボルダラーの着地を補助することです。従って、ボフレダラーはスポッターに対し、過度の期待や安全の保証を求めるべきではありません。もしどうしても自分の安全の保証が必要なら、トップロープなどの他のスタイノレを選択すべきです。
 《クライミング・ジム》 
クライミング・ジムは決して100%安全なものではなく、そこにはジム固有の危険が潜んでいます。危険を伴うスポーツをすることを認識し、了承した人だけに利用させている、というのが多くのクライミング施設です。
それぞれの施設で定められた利用方法を守るとともに、特に次の点への注意が必要です。

1 ホールドやパネルの欠損や回転。
2 ポルダーエリアでのマットの端や、隙間への着地。
3 他の利用者との接触。

特に他の利用者との接触には注意が必要です。ジム内でのド手なグランドフォールは下にいる人を巻き込んでの惨事に発展する可能性があります。ジムには経験豊富なベテランから、はじめたばかりのビギナーまで、さまざまなクライマーが集まりますので、それぞれに危険に対する認識にも大きな差があります。また利用上の諸条件は各施設によって異なりますが、ジムであっても岩場と同じクライミングの危険も存在していることも忘れずに。
日本フリークライミング協会発行 「私達の安全とフィールドを守るために」 から引用