第1回
「レスキュー243」の持つ意味は「243富士見」と「243不死身」
2011年4月に富士見平小屋をリフレッシュオープンして以来、数多くの負傷者を見てきた富士見平小屋管理人。転落による死亡者や、転倒による捻挫や骨折、脱臼、過労の傷病者、また下山が夜9時頃におよび助けを求めて駆け込んでくる登山者、ヘッドライトを持たず携帯電話の灯りを頼りに小屋に駆け込むけ登山者などがいます。その都度応急処置をしたり、背負い搬送をしたり、下山が危険な場合は小屋泊まりを勧めたりして救助をしてまいりました。小屋には、テーピングなどの救急用品や子供達の登山を安全にするためにヘルメット、ロープ、カラビナ、スワミベルト、細引きなどもそろえております。しかし小屋番一人の体と力では限界があります。ヘリコプターも他の業務に出動していれば直ぐには飛んでくれず、民間機を要請すれば100万円くらいは掛かってしまいます。ましてや天候が悪ければヘリ救助は絶対に無理です。地上からの救助隊も出動してから現場到着まで早くても4時間や5時間はかかってしまいます。多種多様な山岳事故が発生している昨今、どうすれば良いのだろうかと考え続けました。そんな折、小屋を利用する登山者達から、「瑞牆山や金峰山への登山者の多い土・日・祝日などに2人1組で小屋に詰めて、安全登山を提唱し、救助体制を確立してはどうだろうか」と言う素晴らしい提案があり、この名案に 管理人が飛びつきました。その名も「レスキュー243」と名付け、救助だけでなく安全登山についてもいろいろ勉強して行けば、遭難事故も減らせるに違いないと確信し、今回の勉強会を実施することになったのです。すべての参加者が「ゼロからの出発」という事で、経験豊富な受講生であっても、「能ある鷹は爪隠す」を合言葉にして、心地よい空間でみんな同時に第一歩を踏み出すことにしたのです。「レスキュー243」の持つ意味は「243富士見」と「243不死身」のゴロ合わせであります。
そんなわけで私達大阪組も管理人夫婦の心意気に共鳴し、少しでも役立つことが出来ればとロープワークと心肺蘇生法を担当し受講生の皆さんが「こりゃ大変だっ!怪我をしたらこれほどに多くの人達に迷惑をかけるのかっ!」と自覚をしていただければ今回の勉強会は成功だと思って、気負わずに講師役を引き受けて大阪を出発することにしました。3月17日、午後9時過ぎに阪神高速福島入り口を通過し、名神中央道を通り「駒ヶ根SA」で休憩と運転交代をし「諏訪湖SA」で時間調整のための3時間ほど仮眠休憩を取り、北杜市長坂にある管理人宅で午前6時に合流することにしていました。私達の車はノーマルタイプ仕様のため、凍結した道路の走行は危険という事でスノータイヤを履いた車に乗り換え瑞牆山駐車場に向かいました。駐車場に到着すると数台の車が停めてあり「あれっ?ひょっとして受講生のどなたかが山小屋に向かっているのかもしれないなぁ」とあせる気持ちで林道ゲートを潜り抜け、氷結した林道をおっかなびっくりで走ることとなりました。「オイラは鳥取県の雪国育ち〜雪道は任せておきなっ!」そう豪語したジョンも雪と氷のワダチに悪戦苦闘をし続けましたが、とうとう里宮分岐手前で車をデポすることとなりました。荷物を管理人の軽トラックに乗せ換えて林道沿いに歩いて登ることにしました。軽トラも途中で走行困難となりタイヤチェーンを巻き再び走り出すのですが、なかなかどうして前に進めません。あとは人力で軽トラを押し上げやっとのことで林道上の駐車場に到着しました。アイゼンを履き荷揚げの用意です。麓は春が間近だというのにまだまだ名残り雪が私達の前に立ちふさがっている気がしました。小屋までわずかな距離ではありますが、自分たちのリュックや大勢の受講生用の食材・ストーブの燃料など荷揚げ作業が大変です。小屋前に2〜3人の人影が見えて、既に到着している様子です。小屋の温度計はマイナス4度を示しています。到着していた受講生の皆さんとの挨拶もそこそこに10時のスタートにむけて準備に大わらわ・・・・
 ●第一期講習(3月17日〜3月18日)
山小屋の入り口のテーブルに受講生の皆さんの名札を用意しました。講習プログラムを貼ったり、使用するギアーや滑車、ロープなどを並べ、定刻の午前10時にはどうにか準備完了することが出来、慣れない講師役に、少々緊張気味のジョンが、ここでやっと美味しい空気を体中に吸い込み気合いを入れました。
山小屋の管理人夫婦の紹介と4月から親父の跡を継ぐ決心を固めた「たっちゃん」の紹介、講師の紹介、「レスキュー243」の発足、そして何故にレスキューが必要なのかを交えた管理人の挨拶があり順調な滑り出しとなりました。
翌日が雨模様ということから野外でする講習を前倒しにし、プログラムの内容変更がありました。
受講中であっても10時と3時のお茶の時間は「マダム悦子」は小屋の中を忙しく往来したり細かな気配りの目を終始張り巡らせてくれて、おかげで居眠りをする受講生は一人もいなかった様に感じています。日帰りの受講生もいたため午後5時を終了時間と決めました。宿泊予定の受講生4人とともに夕食のおもてなしを受け風も強くなってきたことから午後7時30分にはテントの中に帰りました。夜が深まると風が強くなり倒木でテントが押しつぶされるのではないかと不安になるほどでした。夜空に輝く星は手を伸ばせば届きそうなほど近くに感じてテント泊だからこそ味わう事の出来る天体ショーを楽しむことができました。しかし夜明け近くになるとテントを叩く雨音で目が覚めてしまいました。午前5時天気予報はピタリと当たり2日目の講習のプムグラムを変更しておいてよかったと思っています。第二日目の朝を迎え朝食を済ませ午前8時30分から講習開始です。 
午後からは2日間の講習のおさらい的な流れで質疑応答も含め午後3時には第一期の講習が修了となりました。受講生全員が善意の集団であることを念頭に置き、学んだことを生かしながら、訪れる登山者が怪我なく登山を楽しんでもらうためのお手伝いをしてもらえるのではないかと思っています。受講生の中にはプロ的な人物もいて「山は、仲良しこよしでやっていけるほど甘くありません」と指摘した人もいましたがチームワークなくして「レスキュー243」は成立しないのです。

滑落者への進入…懸垂下降 進入後の登り返し…器具登攀
ハイライン…空中搬送  水汲み作業 救助本部設置や登山道の整備
ロープによる担架の製作  膝や踵のテーピング 
 
背負い搬送  救命救急法 
 
三角巾による腕の吊り固定  滑車1/3   ロープの結び方
RESCUE243 救助時持ち出し 応急用品・装備品一式

 美智子姫:記00